映画「レ・ミゼラブル」は、ラ・ジリ監督によるフランス映画。
「パラサイト 半地下の家族」と受賞を争ったこの映画は、フランスの貧困地域を描いた作品で、パラサイトに次いで評価も高い。
パラサイトが目立ちに目立ってしまったため、日本ではいまいち振るわなかった。けれども「パラサイト」と「レ・ミゼラブル」を比較したとき、「レ・ミゼラブル」を推す人も全然いるだろうと思えるほどの名作だ。
いくら名作を作っても知名度によってこうも左右されてしまうと、やっぱり知名度って大事ね。と改めて思う映画だった。
80点
映画「レ・ミゼラブル」映画情報
タイトル | レ・ミゼラブル |
公開年 | 2020.2.28 |
上映時間 | 104分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ラ・ジリ |
映画「レ・ミゼラブル」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ダミアン・ボナール | ステファン |
アレクシス・マネンティ | クリス |
ジェブリル・ゾンガ | グワダ |
映画「レ・ミゼラブル」あらすじ
パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街も、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることとなった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることに……。
filmarks
映画「レ・ミゼラブル」ネタバレ感想・解説
「レ・ミゼラブル」は実体験を元にした話
映画「レ・ミゼラブル」は、ヴィクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」の現代版の話。原作は19世紀フランスのモンフェルメイユが舞台だったのに対して、今作は同じ場所で21世紀の「レ・ミゼラブル(悲惨な人々)」を描いている。
同地は第2次世界大戦以降、アフリカの旧植民地から移民労働者が大量に住み着いた町で、映画内でグワダが言っていたように、麻薬などが横行するような治安の悪い町だった。
ラ・ジリ監督は同地で移民2世として育った人間の1人。警察は子供に対しても容赦なく罵声を浴びせ、時には暴力を振るう。自分たちの非で傷つけたのにも関わらず、保身に走る。これは作り話ではない。監督の実体験を通して作られた映画だ。
クリスたち警察の横暴に対して子どもたちが騒ぎ始めたとき、イスラム系の移民に対してステファンは2005年の暴動を引き合いに出して説得する。移民の若者と警察官との間で3週間にわたる激しい衝突が実際に起きていた。
貧困の差が激しくなればなるほど衝突を生む。言葉ではどうしても届かなければ、最終的に暴力に変わっていく。
同じ貧富の差を描いた韓国映画「パラサイト」。同じ年になければこの映画はアカデミー賞を受賞していたのかもしれないし、もっと日本でも知名度があったかもしれない。
「ラスト10分の衝撃」というキャッチコピーでもつきそうなほど、恐ろしさを感じる映画だった。
「良い草も良い人間もない。育て方が悪いだけだ」
ヴィクトル・ユーゴーの小説の一節がラストに紹介されているけれど、まさに大人たちが負の連鎖を生み出し、それが脈々と子どもたちに受け継がれている。彼ら彼女らも真っ当な教育や愛情を受けているのであれば、人に向かって火炎瓶を投げ込もうなんて思わないだろう。
悪いことをした奴には火をつけて消す。イッサは大人たちからそれを学んでいた。
冒頭でイッサの父親と思われる人が、「この子は手に負えない」「警察に預ける」「1人で生きていけばいい」などという言葉をイッサの前で叫んでいた。その原因はイッサが盗みを働いたのが原因なのだけれど、根本は育て方にある。
この映画を観ていると90年代の日本を思い出す。バブル崩壊の影響からか90年代後半は大人が子どもに対して投げかける言葉にもこういう心ない言葉が今よりも多かったような気がする。
愛情を受けているか、教育を受けているかによって人間は大きく変わる。愛を知らない人間が愛を返せるわけがない。でもその余裕があるかどうかについても貧困が根底にあるわけだ。
フランスという国は、知っているようで実はあまり知らない。なんとなく華やかなイメージで、オシャレでかっこいいし、サッカーなどのスポーツも盛んなイメージを受けるけれど、その裏では多民族国家ならではの衝突もあり、貧困も広がっている。
「レ・ミゼラブル」のラストはどうなったのか
物語のラスト。イッサが火炎瓶を投げつけようとする瞬間に物語は終わる。その結果は描かれないけれど、果たして投げたのか投げなかったのかどちらだろうか。
私は2つの理由から投げてないと推察している。
1つ目は、ステファンがイッサに対して良識ある行動をしていたからだ。少なくとも彼の身を案じ、薬局に連れて行き、適切な行動を起こそうとしていた。クリスとグワダしかいなければ迷いなく投げたであろうが、ステファンに対して火炎瓶を投げつけるとは考えにくいし、事実彼は迷っていた。
もう1つは、原作のストーリーにある。「レ・ミゼラブル」は1人の囚人が他人の優しさに触れながら、自らも聖人となっていく話だ。
他人に優しくされたときそれは伝わるはずであり、彼は銃で脅されたからでも、殺人が怖いからでもなく、ステファンへの礼儀を持っていたはずだ。理不尽な大人たちの間で育ち、愛情をまともに受けてこなかったと思われるイッサ。
だからと言って、他人の優しさに触れて心が動かないはずがない。
「レ・ミゼラブル」は救いのない映画ではあるが、同時にいつでも救うことができる映画なのだ。
映画「レ・ミゼラブル」を観たならこれもおすすめ
同じ年に公開された「パラサイト」。アカデミー賞4冠となる快挙を得た映画で、公開当時日本でも大きく話題になった映画。現代の韓国社会をユーモアを交えて皮肉っている。
単純な富める者=悪者という扱いにしていないところも評価が高い理由の1つ。
コメント