「ユンヒへ」は2022年公開の韓国映画。
高校時代に好き同士だったジュンコと離れ離れになったユンヒ。20年後のある日、ジュンコから届いた手紙を娘セボンが読んでしまうことから始まる恋愛映画。
岩井俊二監督の「Love Letter」からインスパイアされたという本作は、手紙がキーになって韓国と北海道の小樽の二軸で展開される。
岩井俊二の描くノスタルジーな雰囲気を踏襲しながらLGBTの苦悩が描かれ、暗い雰囲気が漂う。
しかし、決して明るくないまでも月の光のようなかすかな希望も垣間見えて、素敵な作品に仕上がっていた。
「ユンヒへ」
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「ユンヒへ」映画情報
タイトル | ユンヒへ |
公開年 | 2022.1.7 |
上映時間 | 105分 |
ジャンル | 恋愛 |
監督 | イム・デヒョン |
映画「ユンヒへ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ユンヒ | キム・ヒエ |
ジュンコ | 中村優子 |
セボム | キム・ソへ |
ギョンス | ソン・ユビン |
マサコ | 木野花 |
リョウコ | 瀧内公美 |
映画「ユンヒへ」あらすじ
高校生の娘を持つシングルマザーのユンヒのもとに、いまは韓国を離れて北海道・小樽で暮らす友人から1通の手紙が届いた。もう20年以上も連絡を絶っていた2人には、互いの家族にも打ち明けていない秘密があった…。
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映画「ユンヒへ」ネタバレ感想・解説
ユンヒとジュンコは愛し合っていた。
(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
「ユンヒへ」はジュンコがユンヒへ宛てた手紙を娘のセボンが見つけて読む場面から始まる。
女性からの恋しい手紙から察するに、直接的な表現はなくとも、ユンヒとジュンコが恋愛関係にあったことを何となく察せられる。
はっきりとした表現は少ないままだけど、言葉の端々からユンヒが孤独を抱える理由が明らかになっていく。
高校時代にユンヒとジュンコは恋愛関係にあった。
2人は韓国の学校に通っていたものの、ユンヒが両親にジュンコのことを打ち明けたことで精神病院に入れられてしまう。
そしてジュンコは親の離婚を機に北海道へ引っ越してしまい離れ離れに。
離れてから20年が経つも、未だ忘れられない2人。
だいたいこういうパターンの場合、その当時の思い出をシーンとして挿入するのだけれど、「ユンヒへ」では一切登場しない。
若かりし頃の写真ぐらいしか登場せず、どれだけ2人が愛し合っていたのか、それがどれほど美しい恋愛だったのかは彼女たちの手紙や表情の中から想像するしかない。
あえてその淡い思い出を登場させず、その後過ごした20年を罰だとして生きてきたユンヒと、誰にも打ち明けずに隠し通し続けてきたジュンコの苦悩が映し出されていく。
なぜ、昔話を演出しなかったのかというと、おそらくこれは未来の話だから。ずっと過去に囚われ続け、自分を大切にしようともせず、やりたいこともやってこなかったユンヒが、前向きに生きるまでの物語だからだ。
過去の美しい思い出から現在の不幸な境遇を見せる映画ではないからであろう。
リョウコの秘密とは
(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
ジュンコが勤める動物病院で知り合ったリョウコ。
ジュンコがリョウコと飲みにいったとき、ジュンコが牽制する場面がある。
「あなたが持つ秘密は決して誰にも言ってはいけない」と。
韓国人だということを隠し続けてきたとジュンコは打ち明けているが、本当に隠していることは女性が好きだという事実
リョウコが自分に好意を持っていると悟ったため、それを言わせまいと勇気を振り絞って牽制したのだ。
そのことを知られた結果起こった悲劇をジュンコは知っているから。
女性を愛することが悪いことだと教えられ、ユンヒとの関係を引き裂かれ、逃げるようにして小樽へ来たジュンコにとって、決して打ち明けてはいけないことだったから。
だけれども、ジュンコ自身も良子に対して好意があったことは事実。
月のことを韓国語でワルだというシーンがあるが、それをジュンコがリョウコに伝えたことを知って少しびっくりしている。
韓国人だということを隠していたはずなのに、うっかり心を許して口を滑らしてしまったのだろう。
しかし、思いとどまる。
それを周囲に知られることが、どれだけの犠牲を生むのかわかっているから。
「ユンヒへ」のラスト
(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
20年以上会ってなかったユンヒとジュンコは小樽で出会う。
最初は出されていなかった手紙を出した叔母。
それを受け取った娘のセボン。
2人が恋のキューピッド役となり、2人をもう一度引き合わせたのだ。
当時はただ引き裂かれるだけだった2人だったが20年の時を経て、味方になってくれる存在がいた。
ユンヒはずっと罰を受けていると思っていた。
女性を愛してしまった悪い自分は死ぬまで罰せられる必要があるのだと。
その呪縛からとうとう解放された。
ユンヒは精神的に束縛されていた兄と決別し、自らの道を歩き始めた。
「何のために生きているの?」とセボンに問われると、答えに窮したユンヒはもういない。
自分のためにセボンの世話をして、自分のために勉強して店を出そうとしている。
第二の人生をこれから歩んでいくのだ。
失われた20年はもう取り戻せないけれど、月の光のようにほんのり明るい未来があると信じて。
写真を撮ると全く笑わなかったユンヒだったが、最後にユンヒはにっこりと微笑んだ。
今でこそLGBTQの理解が進んできたけども、当時はカミングアウトをすることがとても恐ろしいことだったのだろう。
他人の子がLGBTQであっても、それを否定しない風潮はどんどん進んでいる。
それは精神を病んでいるわけでもなければ、人間的な欠陥があるわけでもない。
生物学的な理由や子孫繁栄の意見を出して批判するのはナンセンスだ。
しかし、「自分の子どもがもしそうだったならば、私はどう思うのか」ふと考えることがある。
異性を家に連れてくるのと同じように恋人として同性を連れてきたとして、私はすんなり受け入れることができるのだろうか。
その世界の当事者として2人は苦しんできたのだと思うと、「あなたが持つ秘密は決して誰にも言ってはいけない」と言ったジュンコの言葉が胸に突き刺さる。
岩井俊二の「LoveLetter」と世界観がつながっている「ラストレター」のようにキャラクターはどこか愛くるしくてそして儚い。
セボンのちょこまかした動きがとても魅力的で空気も和む映画だった。
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