映画「愚行録」は2017年の映画。
「悪人」や「怒り」「パレード」など人間の闇にスポットを当てた心をえぐる映画の1つだ。
後味は決して良くなく、観た後の気分の悪さが保証できる作品でもある。
この手の映画は鑑賞後の考察もおもしろく、重たい映画、意表をついた展開が好きな人におすすめだ。
というわけで当記事では映画「愚行録」のネタバレあらすじと解説を書いていく。
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映画「愚行録」 キャスト・あらすじ
予告
あらすじ
エリート会社員の夫・田向浩樹(小出恵介)、美しい妻・夏原友季恵(松本若菜)と娘の一家が、何者かに惨殺された。事件発生から1年、その真相を追う週刊誌記者の田中武志(妻夫木聡)は、一家の関係者を取材。浩樹の同僚・渡辺正人(眞島秀和)、友季恵の大学時代の同期・宮村淳子(臼田あさ美)、浩樹の大学時代の恋人・稲村恵美(市川由衣)らから語られる、一家の意外な素顔に驚く田中。そして、自身も妹の光子(満島ひかり)が育児放棄の容疑で逮捕されるという問題を抱えていた。
キャスト
- 田中武志:妻夫木聡
- 田中光子:満島ひかり
- 田向浩樹:小出恵介
- 宮村淳子:臼田あさ美
- 稲村恵美:市川由衣
- 夏原(田向)友希恵:松本若菜
- 尾形孝之:中村倫也
- 山本礼子:松本まりか
- 渡辺正人:眞島秀和
- 橘美紗子:濱田マリ
- 杉田茂夫:平田満
- 武志・光子の母:山下容莉枝
- 村本:小松勇司
- 武志の上司:髙橋洋
原作、スタッフ
- 原作:貫井徳郎
- 監督:石川 慶
映画「愚行録」 ネタバレあらすじ
光子の逮捕
田中武志(妻夫木聡)は妹の光子(満島ひかり)のいる留置所に弁護士とともに面会に来ていた。
光子は、娘に対する育児放棄により逮捕され、娘は意識不明の重体に陥いっていた。
しかし、罪の意識もなくどこか他人事のように話す光子に対して、弁護士は武志に精神鑑定を勧める。
光子は子どものころ親から虐待の経験があったからだ。
- 私って秘密大好きだから
と武志に話す光子に何かしらの秘密があることを知る。
田向家の一家惨殺事件
武志は勤めていた出版社に懇願し、1年前に一家惨殺された田向家の取材を行っていた。
それは、田向裕樹(小出恵介)と田向友希恵(松本若菜)、その娘の3人が何者かに惨殺され、1年経つ今も犯人不明のままの事件だった。
取材の1人目は渡辺正人(眞島秀和 )。田向裕樹と同じ会社の同僚だ。
稲大出身の2人は入社後に意気投合し、社の飲み会によく参加していた。
裕樹は仕事で苦労していたものの、女遊びでは渡辺と息があい、実際に社内の女性に対しての扱いは褒められたものではなかった。
武志はそれが原因で恨みを買っていないか確認するも、それなら私も同じだと渡辺は言う。
別れ際、渡辺は泣いた。
- なんであんな良い奴が殺されなあかんのですかね。
2人目は、宮村淳子(臼田あさ美)。田向裕樹の妻、夏原(田向)友希恵の友人だった。
文応には、外部生(大学から文応)と内部生(高校以前から文応)がいて、内部生は親が金持ちの富裕層であった。
特に女子の中では外部生と内部生(高校から文応)で派閥があり、外部生は内部生に取り入ろうと必死だった。
夏原は外部生であったが、その美しさと華やかさにより内部生とも仲が良かった。
他の外部生はそんな夏原に取り入ろうとゴマをするが、夏原が外部生を取り次ぐことはしなかった。
そんな夏原を宮村は冷ややかに受け止めていた。
しかし、宮村は当時付き合っていた尾形(中村倫也)を夏原に奪われてしまう。
宮村は言う。
- 夏原さんは私に憧れているところがあったから
内部生には他にもひどい扱いをされた人が多く恨みを多く買っていたという。
- あぁいう死に方は夏原さんらしい
と。
3人目は尾形。宮村の元カノだ。
武志は宮村から聞いた話を尾形に伝えるが、
- 淳子が夏原のようになりたかったんじゃないの
と、2人の意見は食い違っていた。
尾形の証言では、宮村は見栄っ張りなところがあり、夏原に対しても敵意を持っていた。
結果的に尾形を奪われた宮村と夏原は仲違いしてしまう。
新たな証言者
田向家殺人事件の記事を発売したある日、出版社にある女性から電話がかかってきた。
- 田向家を世界で一番知っていて
- 田向を殺した人を知っている
という
武志は、電話をしてきた女性、稲村に会いに行くと赤ん坊を連れていた。
稲村は田向裕樹と稲大時代の知り合いで、昔付き合っていたという。
- 日本は階級社会なんです
と彼女は言う。
田向は、稲村の父親の会社が商社と繋がっていることを知り、紹介を依頼していた。
武志は同時に他の女性とも繋がり、ディベロッパー会社にも内定を決めていた。
事実が発覚し、理由を問い詰められると
- 将来、隣にいてくれる人を幸せにして、
- 生まれてくる子どもを全力で守りたい
- そのために、今できることならなんだってする
というものだった。
武志は、田向さんを殺した人は誰なんですか。
- 田向裕樹の器になれないことに気づいた人
と言った。
光子の秘密
武志も光子も父親から虐待を受けていた。武志は暴力、光子は性的虐待。
武志が高校生になったころ、光子への父親の性的虐待を目の当たりにして、父親に暴行し追い出したことから光子は武志に並々ならぬ信頼を抱いていた。
ある日、宮村から武志のもとに再び連絡が入る。
- 夏原さんに人生を壊された人をもう1人知っている
それは、光子だった。
光子は、文応大学だった。最低な生活から這い上がるために必死で勉強したのだ。
しかし、大学が這い上がる先ではなかった。家柄が悪いと這い上がることはできないことを知る。
家柄とは無関係に人生を謳歌している夏原に憧れを抱く。
夏原は光子の美しさを利用して内部生を紹介していた。
光子は自分の人生から這い上がるために必死に我慢して内部生と関係をもってきた。
しかし、内部生は光子を性の対象としてみていなかった。
- あたしが田中光子だったら殺してるかも
宮村は言う。
武志はその一言を聞いた後、
- 宮村を撲殺した
元カレの尾形の吸い殻を残して立ち去った。
光子は精神鑑定をを受けていた。
光子は語る。
- 愛してくれる人と
- 愛してくれる人に似た子どもを産んで
- 3人で暮らしたかった
誰でも見るささやかな夢だった。しかし、その夢が叶うことはなかった。
彼女は、過去の出来事が原因で子供を愛することができなかったためだ。
そんな中、憧れていた夏原に出会う。
夏原は光子が手に入れられなかったすべてを手に入れていた。
光子は憧れにはなれないのだと悟る
なにかがプツンと切れ、
- 田向家の家族を殺した
光子の娘が亡くなった。弁護士は武史と光子の母親に会った。
母親は再婚し、小学生の息子がいた。幸せそうに暮らしていた。
そこで
- 光子の父親は武志だと知る
武志が再び光子に面会している。
- 私って秘密が好きなんだ
と。
映画「愚行録」 ネタバレ考察・解説
愚行録は実話?元ネタはあるのか?
まず、愚行録は完全オリジナルの創作だ。
原作者の貫井徳郎は人間の闇の部分を描くのが得意であり、「乱反射」や「慟哭」などの作品が有名。
「乱反射」は妻夫木聡主演でドラマ化されている。
監督の石川慶は「蜜蜂と遠雷」で天才ピアニストたちの苦悩や葛藤を描き出した非常に実力のある監督。
監督と原作が組み合わさった結果、これだけ狂っていても、どこかリアリティを感じる恐ろしい映画が出来上がったのだ。
光子の子供と父親は誰なのか
光子が武志と面会したときに言うセリフがある。
「私って秘密が好きなんだ」
光子の秘密は2つ。
- 子どもの父親が武志であること
- 田向家を殺した犯人だということ
一見繋がりが無さそうにに見えた光子と田向家。
しかし、複数の人間の視点から見えてくる関係性。実は、光子と夏原は同じ大学の人間であったのだ。
また、妊娠した子供が誰の子なのかも明かしていないが、シーンのそれぞれから導き出される答えは武志との間にできた子供である。
夏原は殺されるような人間だったのか
愚行録の本編では、証言者の主観でしか物事が語られていない。
夏原自身の意思はそこには存在しない。
あるのは宮村と尾形の主観のみだ。
本当に殺されるような悪い女だったのだろうか。
2人の主張はこうだ。
光子の主観
- 私に憧れていた
- 女を出して内部生に取り入っていた
- 外部生を内部生に紹介することはしなかった
- 光子の美しさを内部生へ利用していた
- 夏原には魅力があった
尾形の主観
- 夏原は外部生のあこがれの対象だった
- 男性の良き理解者だった
- 夏原は美しい
- 夏原には魅力があった
まず、男女の違いでこうも違う。
女性は嫉妬や妬みの感情が入り、男性は女性の本音を見ていない。
共通しているのは、
- 魅力があった
ことだ。
さらに
- 夏原が外部生を内部生に引き合わせることはなかった
ことから、その魅力が憧れや嫉妬を生んでいる。
しかし、利用しようとしていたのは
- 外部生の行動もまた同じ
ではないだろうか。
また、光子の件に対しては、光子の独白から分かるように
- 内部生に性の対象として利用されていた
のは事実のようだ。
しかし、明らかに差し向けたという事実はない。
あるのは、
- 光子に複数の内部生を引き合わせていた。
- 光子のことを何かしらの紹介をしている節があった
- 光子からアプローチするように仕向けている節があった
正直、推測にしかすぎない事実しかない。
光子自身、夏原に対して恨みを抱いていたとは思えない。
彼女自身は殺す直前まで夏原に憧れを抱いていた。
殺人の動機は
- 憧れた人になれないと悟ったからだ
- 這い上がることはできないと悟ったからだ
以上のように夏原の心の中は謎のままである。
しかし、この映画のタイトル「愚行録」というのは、ここにいるすべての登場人物を指しているのではないだろうか。
「愚行録」が人間の愚かさを描いた作品だとしたならば、嫉妬や妬みを買ってしまうような行動をしている夏原もまた、愚かなのだ。
いくつもの因果関係が重なり合い、殺人に発展してしまったが、この愚かな行動は1人の人間に対する是非を問うものではなく、等しく人間は愚かだということなのだ。
稲村の子供は誰なのか
稲村は、田向裕樹に対して好意を持っていた。
その人間性に軽蔑をしつつも、生き方には納得し、好意は抱いていた。
しかし稲村は犯人の名前を口にしなかった。
犯人のことを
- 田向裕樹の器になれなかった人
とだけ言っている。
実際の犯人は光子なわけだから、稲村とは面識がないはずなのだ。
また、彼女は子どもの話をした際に
- 似てきているでしょ?
と伝えている。
これは、暗に田向裕樹が父親だと匂わせている。
仮にこの赤ん坊が田向裕樹の子どもとするならば、夏原との間にできた子どもよりも幼いため不倫関係にあったと推測される。
以上のことから、稲村は
- 私は器として選ばれた人間
だと言うことを伝えるために連絡をしてきたのだ。
自分のような器になれなかった人間が犯人なのだとして、自己顕示欲を満たしたかっただけなのだ。
武志は光子が犯人だと知っていたのか
武志は宮村の口から光子の名前が出た後、宮村を殺す。
そもそも武志は光子が田向家の犯人だと知っていたのだろうか。
答えは「Yes」だ。
武志は、1年経過した後の田向家殺人事件について再び記事にしている。
編集長は、妹が逮捕されて何かにすがっていないと耐えられないと言っていたが、
逮捕されたがこそ
- 田向家の真犯人が光子だとバレないようにするため
手がかりを知るものを殺そうとしたのだ。
そのため武志は何人もの人間に会う。
そして光子のことと、その過去を知っていた宮村を殺したのだ。
その結果、事件の真相を知るものは田中兄妹だけになる。
- 私って秘密好きだから
武志はなぜ最後に席を譲ったのか
武志は、映画の始まりと終わりにおいてバスに乗っている。
始まりでは席を譲らずに他人に怒られ無理やり譲らされる。終わりでは自ら他人に譲る。
これは何を意味するのか。
- 終わりのシーンでは妊婦だったため
- 愚かな行為の終わり
始まりのシーンでは、年配の女性、終わりのシーンは妊婦であった。
武志は実の娘を亡くしている。妊婦を見てその悲劇を思い出し優しさによる行動を見せたのかもしれない。
もう1つ、始まりのシーンでは他人に無理やり譲らされた腹いせにわざと足の悪いフリをして、相手に罪悪感を植え付けようとしていた。
この映画は人間の愚かな行為に満ちあふれている。
その反対の行為を最後に見せることで、愚かな行為の終わりを示していたのかもしれない。
映画「愚行録」を見たならこれもおすすめ
映画「愚行録」の原作は貫井徳郎氏。
意表をついたオチには定評があり、私も以前「慟哭」という作品にて見事に作者の術中にはまった。
他にも妻夫木聡主演でドラマ化にもなった「乱反射」もおすすめの1つだ。
愚行録のような人間の闇にスポットを当てた映画は他にもある。
李相日監督作品であり、吉田修一原作の
吉田修一原作で希薄な人間関係の闇にスポットを当てた「パレード」という映画もおすすめだ。
64の監督と吉田修一がタッグを組んだ「楽園」もおすすめだ
石川慶監督作品で、音楽という狭き門に挑むピアニストたちの苦悩や葛藤を描く。
こちら側もあちら側も関係ない。音楽とは音を楽しむものなんだ。