映画「囚われた国家」は、猿の惑星の監督ルパートワイアットによる作品。
2019年、エイリアンに地球が侵略され、全市民にはGPSが埋め込まれて常に監視下に置かれた世界。
人間たちは統治者(エイリアン)により資源を搾取され続け街は荒廃していく。
この支配から逃れるためにレジスタンスは爆破テロを企むが、、敵は人間だったという話。
猿の次はエイリアンに人間が征服されてしまうなんともM気質のある監督だが、その出来栄えは想像以上にエモくて美しくて、最高で最悪のディストピア映画だった。
あまり話題にならないマイナーな映画であるが、隠れた傑作なのでおすすめだ。
「囚われた国家」
映画「 囚われた国家 」あらすじ
地球外生命体に占領されて10年経ったシカゴでは、それらに協力する者と抵抗する者に分かれて衝突する様を描く
映画「 囚われた国家 」映画情報
監督 | ルパート・ワイアット |
脚本 | ルパート・ワイアット |
エリカ・ビーネイ | |
音楽 | ロブ・シモンセン |
公開 | 2020年4月3日 |
製作国 | アメリカ |
製作費 | 2500万ドル |
興行収入 | 870万ドル |
映画「囚われた国家」キャスト
役名 | キャスト |
---|---|
ウィリアム・マリガン | ジョン・グッドマン |
ジェーン・ドゥー | ヴェラ・ファーミガ |
ガブリエル・ドラモンド | アシュトン・サンダーズ |
レイフ・ドラモンド | ジョナサン・メジャーズ |
チャールズ・リッテンハウス | アラン・ラック |
ユージーン・アイゴー | ケヴィン・ダン |
映画「囚われた国家」ネタバレ考察・解説
エイリアンの存在はあまり出てこない
まず最初に言わせてもらうと、この映画はとてもおもしろかった。
それなのになぜ評価がパッとしないかというと、統治者と呼ばれるエイリアンの出番の少なさにある。
だいたいエイリアンによる侵略系の映画って人間vsエイリアンになるんだけど、「囚われた国家」では侵略中どころか人間側が降伏して9年後の世界。
それに、エイリアンが人間を監視するというよりも人間が人間を監視するため、エイリアンは直接手を下すことはあまりない。
漫画「Hunter x Hunter」のキメラアント編で登場した「指組」みたいな制度が人間社会をより疲弊させているようだ。
それは、少し前まで人種や民族の違いで同じようなことをやっていた人間たちが、今度は人間というくくりで同じことを繰り返すというのが、今の社会を強烈に皮肉っていておもしろい。
というわけでエイリアンという大きな存在を描きつつも、人間同士の争いで終始したりするので、この映画は少し肩すかしというか、期待値のズレによる「こんなはずじゃなかった」映画と捉えてしまう人もいて、評価が低い。
さらに世界観の圧倒的な説明不足により理解しづらい内容になっているため、何がしたいのかわからないし、登場人物の背景も必要最低限なので、共感も得にくい内容もその一因に一役買っている。
しかし、それはポジティブに捉えることもできる。この映画の主張は、たった1人でも諦めることなくマッチを擦るように抵抗すれば大きなうねりとなって行動を起こせるということ。
その一点をあますことなく見せつけたのが「囚われた国家」だ。
それに加えてテロリストが号令とともに普段の生活を離れて目的のために行動していく緊迫感のある演出や、不透明なエイリアンへの畏敬、ディストピアの儚い世界を感じられる音楽もあいまって、好き嫌いがはっきり分かれることにもなっている。
ムダなセリフや、背景説明、表情ですらも排して、とにかく引き算の美学において伝えたいパートだけを際立たせることが、映画という限られた時間の中で魅せる最高の作品なんだ。
見えてくる世界感
「囚われた国家」には世界観の説明がほとんどない。その映像の1つ1つから観客に世界観を感じさせるスタイルになっている。
まず舞台は2027年のシカゴ。アメリカだけでなく世界が統治者と呼ばれるエイリアンに支配されている。
彼らは地下から人類を制御し、地球の資源を吸い尽くしている。これにより潤った一部の権力者たちはエイリアン側に寝返っていて、反逆の目を潰そうと、日々、目を光らせているのが特捜班だ。
反逆を起こそうとした者など、政治犯たちは宇宙へ送られ、永遠に帰ってこない。
この映像のように岩のような大きな物体が宇宙への片道切符。
人類は皆、首にGPS兼盗聴器を埋め込まれ、日々監視され、プライベートなんてない。これが「囚われた国家」でのディストピア。
ほとんどが抗うことを諦めた人類の中で、反逆を起こそうとする者がいる。
ガブリエルの兄をはじめとするレジスタンス。
彼らの信念は、たとえ1人1人の行動は小さくても、失敗したとしても、マッチをすることで、世界中にいる人々を巻き込めるという主張だ。
草が一気に動き出すときのワクワク感
「囚われた国家」は、レジスタンスの物語だ。人類がエイリアンへの抵抗を諦め、生かしてもらうことを選択した時代に、「マッチを擦り、戦争を起こせ」と立ち上がる人々とそれに反対する者の話だ。
普段は従順な住人として社会に溶け込み、指示が下った瞬間に一気に敵に攻め込む。その伝達方法が見ていて子ども心をくすぐるんだ。
新聞に広告を載せて、そこから鳩を使ったり、犬を使ったり、それだけ見たら誰にもわからないように1人1人が与えられた指示をこなすことで、爆破テロに繋がる。
現実に自分がこのテロに巻き込まれる側の人間だとしたら手口の複雑さにゾッとするんだけれど、今はテロ側の視点で考えているのであくまでフィクションとして楽しめる。
正体を隠して生きていくスパイのような人生は誰しもやりたくないだろうけど、なんだかそこにカッコよさを感じ、ある種の憧れを抱くのは私だけだろうか。
囚われた国家のラストがまたエモい
ラストシーンがまたエモいのがこの作品の最高な点。
ガブリエルの両親の周りに集まった者たちが、時を待ち、爆破テロを起こした。しかし、爆破テロは起こせたものの実行犯は全員捕まる。また、No.1も警察に殺されテロ組織は崩壊してしまう。
と思わせておいて実はそれすらも織り込み済みだったという話。娼婦として活動しながらジェーンは元本部長から情報を抜き取り、それをマリガンに渡すことで、彼を統治者の元へと向かわせるのが目的だった。
透明になり、感知されない爆弾を大量に背負って、閉鎖区域と呼ばれる地下に向かうところでエンドロール。
その成功の可否は明確には語られていないが、エンドロールにシカゴに✖︎印が書き込まれ、それに起因してレジスタンス運動の映像と共に世界中の地域で✖︎印が広がりを見せていく。
そのことから、マリガンは目的を果たし(マッチを擦り)、戦争を起こすことができていると言える。
ガブリエルに渡したSDカードから彼らの想いが伝わってきて、この太っちょのおっさんに哀愁と覚悟と憤怒を感じるのだ。
最高にエモいじゃないか。
2020年公開映画の中でも上位に来るだろう最高の作品だった。
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