映画「スリービルボード」は2018年に公開されたアカデミー賞受賞の映画。
犯人は誰なのだろう。この差別表現はどういうことなんだろう?
様々な疑問を沸かせる映画だった。
この映画は、Twitterのハッシュタグ、「#2018年映画ベスト10」でついたランキングから100人を集計したところ、第1位に輝いた映画だ。
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アカデミー賞に数多くノミネートされたこの作品は、アメリカで根深く存在する人種差別を根底としさまざまな人間同士の確執を描いている。
日本にも差別は当然の事ながら存在する。しかし、これほどまでに表面化して扱われないし、白人と黒人というわかりやすい対立を描くことがないため、少しイメージしにくいところもあるだろう。
しかし、この作品がTwitter上では一位に輝いたというのが大変興味深い。
娘をレイプされて殺された母親が警察に対する挑発として、3つの看板を出すところから始まり、この映画はさまざまな差別問題を描き出す。
またその内容が、日本人にはあまり知られていない出来事も多く含まれているため、分かりづらい人も多いだろう。
この映画をきちんと理解するには、そういった背景も把握しておく必要がある。
今回は、そもそも犯人は誰なのかという考察も含め、会話の中で出てくる差別的な発言の真意に対して調べた結果をお教えする。
総合評価
82
スリービルボード
4.0
Filmarks
4.0
映画.com
4.0
Yahoo映画
4.6
カラクリシネマ
8.4
Rotten tomatoes
8.2
IMDb
- 人それぞれの解釈ができる
- 想定外の方にどんどん進んでいく
- 人間臭い良い作品
- 汚い言葉遣いが多すぎる
- モヤッとする終わり方
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スリービルボード あらすじ
ミズーリ州の田舎町。7か月ほど前に娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、犯人を逮捕できない警察に苛立ち、警察を批判する3枚の広告看板を設置する。彼女は、警察署長(ウディ・ハレルソン)を尊敬する彼の部下や町の人々に脅されても、決して屈しなかった。やがて事態は思わぬ方へ動き始め……。
引用:シネマトゥデイ
スリービルボードネタバレ解説
差別表現について
スリービルボードでは、さまざまな人種や、容姿、性別による差別表現が使われている。
黒人差別、同性愛、小男、女性蔑視、マスメディアによる偏向報道、共産主義、亭主のDV、マザコンなど。
さらに作中では、ファ〇クだの、ガ〇デムだのア〇ホールだの、カ〇トだの汚い言葉が飛び交う。
日本語訳では、大人めの表現になっているが、その英語表現は、日本人でもわかるぐらいに汚い。
いまどき、ホモという表現を聞いたこともないが、この映画には放送禁止用語というものがない。
日本にいるとあまり知る機会のない差別表現をいくつか紹介する。
神父に対していった言葉の真意は?
神父をギャングに例えて、お前も同罪だと非難するシーンがある。
登場する神父に対して、あなたたちは同じ服を着て、ギャングのように行動している。
仲間の一人が犯罪を犯しても、ギャングの一員であれば取り締まれる法律ができたのと同じように、あなたも仲間が性的虐待をしている犯罪者と同じなのだ
というように神父を非難している。
これは、教会で聖職者による児童への性的虐待が問題になっているためだ。
キューバの同性愛者の事件
ディクソンが、レッドに対して、キューバのホモセクシャルに関する話をしたのも日本人は、あまり知らないだろう。
キューバでは、そこにイデオロギーが加わった。革命と社会主義体制を守るためにすべてを捧げる「新しい人間」という概念が提唱され、「性的に逸脱」した同性愛者は「新しい人間」になれないとされた。
1965年から68年にかけ同性愛者は、宗教の熱心な信者らとともに「帝国主義と資本主義の手先」とされ、思想矯正を目的とした強制労働施設に送られた。
引用:朝日新聞デジタル
71年から76年の「灰色の5年間」と呼ばれる時期には、党の方針にそぐわないとされた文化人らが公職から排除され、同性愛者も再び迫害対象になった。
この後、レッドはワイオミングの話じゃないの?と切り返している。それはこの事件のことを指している。
1998年10月7日未明、ワイオミング州で大学生マシュー・シェパードさんがゲイであることを理由に2人組の男から激しい暴行を受けた。牧場のフェンスに縛られて執拗に殴られ、氷点下になった現場に放置された状態で発見され、5日後に死亡した。
引用:HUFFPOST
ストーリーの本筋には関係ないが、知っておくとよりスリービルボードの世界観を楽しめる。
スリービルボードにまつわる10の謎をネタバレ解説
なぜ、登場人物は口も態度も悪いのか
先にも書いたが、この映画、かなり言葉の表現が汚い。
差別表現が多いだけでなく、言葉遣いが皆悪い。
主人公のミルドレッドも、被害者のアンジェラでさえもたいがい口が悪い。
町で慕われているウィロビー署長も子供の前でビ〇チだの、ア〇ホールだの平気で言うし、その妻のアンもディ〇クだの、ファ〇クだの話す。
それに加えて態度も悪い。
ミルドレッドの元夫は、頭に来たら机を倒してミルドレッドの首根っこを締める。
広告会社のレッドも、ディクソンも、ウィロビー署長も足を机に投げ出して座る。(まぁこれはアメリカ映画の登場人物は机の上に足を投げ出しがちなので、向こうでは普通のことなのかもしれない)
しかし、行動自体褒められたモノではないが、そこには娘を殺された悲しみにくれる母親と、町の住民から慕われる警察署長がいる。
この、善悪をはっきりとわけない人間臭さが、この映画に深みを与えている。
分かりやすい映画なら、ミルドレッドとその娘のアンジェラにこのような言葉遣いをさせないし、もっと視聴者が感情移入できるように、悲劇の母親と、優しい娘の設定にするであろう。
親子ゲンカしていても、ここまでの、ヘイトを撒き散らさないよう配慮するはずだ。
小男を下に見下すようなことも絶対にしない。
そういったエンタメ的要素を排除しているため、これだけ映画の評価も高いのである。
少し映画「悪人」に通ずるところがあるが、あの映画では娘はともかく父親はまともな人間としての側面しか描かれていなかった。
3枚のビルボードに放火をしたのはだれ?
ミルドレッドは、警察官の仕業だと勘違いし警察署に火をつけた。
しかし、実際は、カッとなり火をつけたのは元夫であった。
彼はレストランで偶然にもミルドレッドと出くわした席で悪びれた様子もなく語っている。
これでも元警察官である。警察官とは一体。
ウィロビー署長はなぜ自殺したのか?
彼はすい臓がんで余命数ヶ月だった。
まだ、元気なうちに、妻や子どもに辛い気持ちを思い出に残すのではなく、最後に思い出を作って自殺することを選んだ。
吐血したときに、この先妻と子に数ヶ月間の悲しい記憶を共有したくない。そう考えて。
マスクをかぶり、残酷な姿を見せないように。
ディクソンは、なぜ広告会社のレッドを痛めつけた?
ウィロビー署長の死を知り、ディクソンはビルボードのせいでこうなったとキレた。
ディクソンは、頭に血が上ると手がつけられないところがあり、本来まじめな性格であるはずなのだが、それが良い方向に向いていない。
さらに、自分を認めてくれる唯一の人物としてウィロビー署長を慕っていたため、より怒りが増幅してしまった。
ミルドレッドの店に来た男は誰?
ミルドレッドの働く店にきた男と、バーで自分の犯罪を自慢気に語っていた男は同一人物だ。
車のナンバーから、アイダホ州に住所を持つらしいが、ミズーリ州とアイダホ州は2,000キロ離れているため、わざわざなぜ車でミズーリ州まで来たのか不明。
署長を慕う人間の一人でもなく、事件のことを新聞で知り、ミルドレッドの元にやってきた人物。
軍に所属し、海外で悪事を働いていたようだが、アンジェラの事件とは無関係。
ディクソンが守った書類はなんだったのか?
これは、アンジェラ・ヘイズの事件書類。
すぐ頭に血が上ってしまう彼だったが、ウィロビー署長の手紙で「冷静になれ」と諭され改心するとても単純な男だった。
火ダルマになり、書類を守ったディクソンを見て、ミルドレッドは辛い表情を浮かべた。
なぜ、ウィロビー署長はディクソンを庇うのか
ミルドレッドに、「人種差別をする警察官をクビにしてたら3人しか残らないし、そいつらはホモ嫌いだ」と語る通り、この町では人種差別が常態化している。
ディクソンは、切れやすいが冷静に物事を考えることで、正しい行動ができる人物だと考えていた。
差別がひとをくるわせ、自身の苦労が憎しみを呼び、不遇の毎日を過ごしていると。
そのため、周囲がディクソンをよく思っていなくても、クビにはしなかった。
スリービルボードのテーマとは?
憎しみは憎しみを呼ぶ、憎しみは連鎖する、憎しみは差別により増大し、お互いがお互いを嫌悪する。
ウィロビー署長が、ディクソンに、ペネロープ(元夫の恋人)が、ミルドレッドに、憎しみの負の連鎖を語っていた。
しかしラストでは、彼らはまだ迷いながらも、レイプをした犯人を殺しに行く。
気乗りしなくても、憎しみの連鎖を止めたいとはわかっていても、娘を殺された怒りの刃を抑えることの難しさを物語っている。
スリービルボードの真犯人は誰なのか?
正直に言うと、私はこの事件の真犯人は映画には登場していないと考えていた。
いや、犯人はいる。
ウィロビー署長だ。
以下の記事を見てほしい。
かなりの長文なのだが、初回にネタバレしている。
ここまで考察した自分の仮説はおそらく世間一般の考察と大きくかけ離れていないと思うが、それを実に見事に覆しており、ブラックユーモアが効いており、おもしろい。
私が考察したのは、表向きの映画。裏を見ると一気に世界が変わるのだ。
なぜ、息子の顔にシリアルをかけたのか、なぜ、ペネロープ(ミルドレッドの元旦那の恋人)はあんなにも挙動がおかしいのかも判明する。
差別による怒りの連鎖、このテーマとは別に裏側でストーリーを綿密に練り上げたこの映画が、業界で評判がよくなることは当然のことである。
まさに映画好きのための映画だ。
たまに映画を見る人は表側を、映画フリークの方はぜひ裏側の真相を知って震えてほしい。
スリービルボードを見たならこれもおすすめ
主演のフランシス・マクドーマンドが出ている作品でおすすめなのは「ファーゴ」
借金で首が回らなくなった男が自分の嫁を偽装誘拐させて、義父から身代金を奪おうと計画を立てる話だ。
しかし、どんどん悪い方向に進んでいき、犠牲者が膨らむとても重たい映画なのだけれども、登場人物が滑稽でブラックユーモアを多分に含んだ内容となっている。
別人かと思えるほど善人を演じているマクドーマンドに注目してほしい。
汚い言葉で罵るミルドレッドとは違う優しい警官役が見られる。
フランシス・マクドーマンドは2021年のアカデミー賞でも「ノマドランド」で作品賞を受賞している。
2018年のゴールデングローブ賞で作品賞をとった「スリービルボード」と並んでもう1つ受賞した作品がある。
決まった家を持たず、キャンピングカーやバンで暮らす人を描いた映画で、ドキュメンタリーのようでいてしっかりとした人間ドラマがある傑作だ。
アメリカならではの大自然と、その情景にマッチした音楽が相まって最高の体験を届けてくれる映画。
同じ2018年にアカデミー賞を争ったのが「レディ・バード」。
アメリカの田舎町に住む女子校生の中二病のような話で、自らを「レディ・バード」と名乗り、閉塞感漂う田舎を嫌い、都会に憧れながらも、その地でのヒエラルキーはさほど高くない。
持たざることに魅力を感じるのは、日本だけじゃなくてアメリカでもそうなのね、と妙な親近感を得ることができる。
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