遅ればせながら、「カメラを止めるな」を鑑賞。
明らかに見に行くのが遅すぎたため、映画に対するハードルがあがりきってしまった感がある。
全国で上映する頃にはかなり話題になっていたので、地方に住む人間としては仕方のないことなわけなのだけど、もう少し早く見ておけば良かったというのが本音。
期待値はクリアしたのだけど、もしこの映画を全く何の事前知識も、期待もせずに見ていたら、間違いなく人生のベストスリーに入っていた。
今回は、この映画のすばらしさはなんなのか、なぜ早く見るべきなのかを解説する。
結論からいうと、この映画はめちゃくちゃややこしい。
いや、映画自体はめちゃくちゃ分かりやすいのだけど、よくよく考えると混乱する作りになっている。
なぜなら、この映画は視点が大きく3つに分かれていて、何が現実で何が映画なのか分からなくなってくるから。
でもそれらを整理して噛めば噛むほど味が出る。そんな作品。ぜひ「上手に伏線を回収しましたね」だけで終わらないようにしてほしい。
もちろんネタバレ満載なので、まだこれから見る人は見ないようにしてほしい
そしてまだ見ていないのであれば、見る前に少し期待感を変えてもらいたい。「考えてもみなかった展開だ!スゲー!!」みたいなことにはならないと思ってみればいいし、それは事実。
展開はすごいのは認めるが、それだけではなくいろいろすごいのがこの映画。
カメラを止めるな 出演者紹介(ネタバレ含む)
日暮隆之(監督)・・・濱津隆之
映画監督として仕事はするけど、無名。映画に対する情熱は持っているが、現実を知り妥協とストレスを積み重ねている
妥協を知らない娘をもち、娘からは尊敬されていない
日暮真央(監督の娘)・・・真魚
日暮監督の娘。父の背中を見て映画好きとして育ったが、まだ妥協することを知らない。小さい子役に対しても例外なくホンモノの演技を強要する
父親の情熱と母親の憑依が混在して相乗効果を生んでいるサラブレッド
日暮晴美・・・しゅはまはるみ
日暮の妻。昔は役者をやっていたが、異常なまでに役にはいりこんでしまうため強制的に引退した。
ワンカットフィルムには急きょ代役として参加するがやはり役にはいりこみすぎて、混乱させる一番の元凶
松本逢花・・・秋山ゆずき
ワンカットフィルムに出演する女優役。
狙っているだろうが、階段を上るシーンがセクシー的なみどころ。何回か登らせているところに視聴率狙いを感じる
撮影外ではいまいち俳優業にやる気を感じられないため、監督たちの間で「こういう女優はイヤだ」というあるあるネタにされそうなキャラクター
神谷和明・・・長屋和彰
ワンカットフィルムに出演するイケメン俳優枠。
細かいところにこだわりすぎて監督に嫌われるタイプ。監督たちの間で「こういう俳優はイヤだ」というあるあるネタにされそうなキャラクター
人を見下す傾向にある
細田学・・・細井学
ワンカットフィルムに出演するアル中。
酒のせいで人生を失敗している良くある設定で、やっぱり失敗する。ゾンビの顔芸は登場人物の中で一番うまい。
山ノ内洋・・・市原洋
ワンカットフィルムに出演する助監督役。
メガネで気弱なキャラクターで、不幸な役回りが多くかといってそれほど出番があるわけでもないかわいそうな人
山越俊助・・・山﨑俊太郎
ワンカットフィルムに出演する録音マン役。
メールしたことを覚えていないとネチネチしつこくいう嫌味なキャラクター
水でおなかを下すシーンは必見。トラウマがねじ曲がって性癖になってしまうのではないか心配になるほどの屈辱を味わう
古沢真一・・・大沢真一郎
「ゾンビ・チャンネル」のラインプロデューサー。とりあえず作品がそれなりに成功すればよく、こだわりは皆無。
プロデューサーの仕事を知らなくてもプロデューサーにいそうな感覚をいだく。
笹原芳子・・・竹原芳子
「ゾンビ・チャンネル」のテレビプロデューサー。作品に対する思い入れはいっさいない。
テレビ業界は皆こうなのかと思ってしまうほど適当な性格
あるあるネタでないことを願いたい人物。
顔が個性的すぎて一度見たら忘れない
カメラを止めるな ネタバレレビュー この映画が素晴らしい5つのポイント
37分間ワンカット撮影は現実に起きている
1つ目のポイントは、冒頭の37分ワンカットシーン
生放送でワンカットでゾンビ映画を配信するという依頼が来たという設定だ。
あくまで設定だ。だがしかし、本当にワンカットで撮影している。
ワンカットそれ自体は、ストーリー中の1つのポイントでしかないわけだけど、それを実際に実行しているという事実がすごい。
技術的にも役者にもどれだけ大変なことなのか、業界関係者からの絶賛の声からよく分かる。
観るだけ専門の映画ド素人が考えているよりも、さらに難しいものであるはず。どれほどの練習が必要なのか想像もできない。
これだけ長いワンカットフィルムは見たことがなかったので、他の作品にないか少し調べてみた。
長さはバラバラだけど「ヴィクトリア」、「トゥモロー・ワールド」、「ゼロ・グラビティ」、「グッドフェローズ」などいくつかあるみたい。
この中で私が観たのはゼログラビティのみだけど、ワンカットになると臨場感が増すというか、何かハラハラしてくる。VRの没入感とは違うけど、なにかそこに自分も存在するかのような感覚になれるわけだ。
「カメラを止めるな」の37分を超えるのは2015年ドイツ映画の「ヴィクトリア」のみ。こちらは140分ワンカットというさらにわけのわからないレベル感なので、また別で視聴しようと思う。
上には上がいるわけだが、ワンカットの映画自体はそれほど多いわけではない。ワンカットで映画をとるということの難易度の高さが分かるだろう。
トラブルを前提としたカメラワーク
ワンカットがすごいって言ったけれど、プラスアルファとしてトラブルありきのカメラワークで撮影している。
それがまたすごいわけだ。
配役の急なアドリブ、カメラマン役のぎっくり腰によるカメラマンの急な交代、最後の組立体操によるカメラワーク。
作中では、これらのシーンはトラブルとして、1人をドアップにしたり、カメラを落としたりして回避しているわけだけど、
あくまである特殊な条件下で撮影しているという前提で実際に撮っている。
冒頭で3つの視点があるといったけど、1つ目は最初のワンカットフィルム、2つ目はワンカットフィルムを撮るためのスタッフを含めた場所からの視点、3つ目はそれらを現実に撮っているリアルなスタッフの視点。
その3つ目の視点は、エンディングで出てくるが、2つ目の視点は、現実ではないので実際にはカメラマンはぎっくり腰にならないし、急に機材が壊れるわけでもない。
それらを踏まえたうえで、上田監督をはじめ、リアルなスタッフは、カメラをぎっくり腰で落としたかのように撮影をし、機材が壊れて人力で上からの撮影を行っているかのように撮っているわけだ。
しかもそれをワンカットなわけだ。現実と虚構の境目が分からなくなるというのはそういうこと。
ワンカットフィルムに出演する役者は1人2役演じてる
冒頭の37分間に出演する役者は、ワンカットフィルム内で演じる役とワンカットフィルムに出演する役者として演じる役の2パターン存在する。
1人2役あるわけだ。それらをこの2つの視点から使い分けて演じている。
これがまたよくよく考えると混乱する。どこからどこまでが演じている役者を演じているのか分からなくなってくる。
これは素の演技なのか、役者としての演技なのかその境界線もあいまいにし、深く味わいのある作品に仕立てている。
「カメラを止めるな」に出演する個性のある無名な役者たち
無名と言いつつこれほどまでに個性のある役者がよくいるものだと感心してしまった。
役者を知らないからこそ、現実と虚構の線引きがあいまいになりやすいともいえる。この人たちの本当の素顔が見えなくなるわけだ。
もちろん、本名は別にあるわけだが、このワンカットフィルムとその裏話による2つの視点により、その境界がとても曖昧なものになり、なんとも言えない没入感を味わえる作品になっている。
監督の妻役は、演技が明らかに下手くそなわりに、役に入り込むと手に負えなくなるという設定だ。
序盤では明らかに大げさで1人浮いていたわけだが、こういう下手くそな役がらを演じる演技というのにうまさを感じる。
冒頭のシーンで、女優の松本逢花が、日暮監督に対して「(感情は)出すんじゃない、出るんだよ」と問い詰めるシーンがある。
それらは、37分間のワンカットフィルムにより、各俳優からふんだんに出ている。
いろんなトラブルを想定した演技を30分間。これらは実際に役者が演じている。
生放送ではないがワンカットで撮影するというかなりのプレッシャーの中で演じているわけだ。
必然的にリアクションは出すものではなく、出るものになっているはずだ。
「カメラを止めるな」の脚本の巧みさ
これはもう言わずもがな。これを皆賞賛している。
上で指摘した見るべきポイントの前提として、まずは脚本が素晴らしいということ。
三谷幸喜を意識したと上田監督は言っているが確かに喜劇の部分はそうといえよう。またちょっとした違和感から、徐々に種明かしをしていく手法は、「アフタースクール」を手掛ける内田けんじ監督に似ている。
上田監督が色々な人を参考にしたというとおり、なにか既視感のあるような流れはたくさんあり、それらを凝縮したうえで個性をふんだんに出したのがこの映画だ。
映画館で笑うことはあまりしないタイプだけど、ついつい笑ってしまうシーンはたくさんあった。
出演者すべてのキャラに伏線が張り巡らされており、それらすべてを余すことなく回収していくことがとても気持ちが良い。
「カメラを止めるな」を事前情報なしに観るべき理由
本当の悪はネタバレではない、期待値のベクトルをずらしてしまうこと
「君の名は」にしろ、「カメラを止める」なにしろ、SNSが普及しすぎて爆発的に、異常なまでにハードルを上げてしまっている。
しかし、SNSだけならまだいい。マジョリティに拡散されるものの、SNSはそれなりにグループが分かれている。女子高生が話題になっていることをリーマンのおっさんが知らなくてもそのグループにいない場合は、どれだけ拡散していても案外知らないものだ。
しかし、テレビのような巨大メディアが取り上げ始めてしまうともう終わりだ。ネットを知らない層まで深くアピールするし、巨大メディアの情報がゆえに様々なメディアやSNSで拡散する。
2作品とも、そのハードルをものともせずにクリアしているわけだが、それでもやはり期待感というハードルのせいで、本来なら爆発していただろう感動を大なり小なり落としてしまっているのは確かだ。
そもそも、ネタバレしないことなんて前提なのだ。しかし、含みをもたせた時点で人は、今までの経験則からなんとなく推測をする。そして無意識のなかで期待しはじめる。
そこには経験をもとに具体化された期待の方向性のようなものが内在しており、それが本来の映画で受ける衝撃とは別な方向へ進んでしまうことがある。
「カメラを止めるな」を観た人におススメの映画
アフタースクール/内田けんじ
違和感からのネタバレの元祖といえばこの監督。
運命じゃない人/内田けんじ
内田けんじ監督の初回作品
ザ・マジックアワー/三谷幸喜
影響を受けたと言っている三谷幸喜監督。笑いに関しては長けている方。
THE 有頂天ホテル/三谷幸喜
同じく三谷幸喜監督作品。
ヴィクトリア/ゼバスティアン・シッパー
ワンカットムービーで最長を誇る作品。