「落下の解剖学」はフランス発のミステリー。転落死した夫は自殺か他殺かを巡って法廷劇が繰り広げられる人間ドラマ。
しかし、単なるミステリーとして観るには危険。アカデミー候補に上がるだけあって一筋縄ではいきません。
謎が解決し、スカッと気持ちの良い最後とはなりません。母と息子の関係に涙したり、母のサイコパスっぷりに怯えるわけでもありません。
様々な角度からの事実を投げつけ、時には父を亡くし、母が容疑をかけられた息子の辛い心中を慮りながら感情に訴えかけて物語を進めます。しかし、真実はやじろべえのようにどちらにも転びそうでどちらにも転ばすに進んでいきます。
堺雅人主演の「リーガルハイ」のような逆転劇ではなく是枝裕和監督の「三度目の殺人」のような法廷劇を観たいなら「落下の解剖学」はおすすめです。
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映画「」キャスト
登場人物 | キャスト |
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映画「落下の解剖学」ネタバレ考察・解説
あらすじ
「落下の解剖学」はフランスの法廷で繰り広げられるリーガルドラマ。監督はジュスティーヌ・トリエ。
人里離れた雪積もるフランスの山荘で暮らす3人家族。息子のダニエルは事故で視力を失って、盲導犬を連れています。
サンドラはドイツ人作家で、物語はインタビューを受けているところから始まります。インタビュー中、急に階上で爆音が流れ始めます。サンドラは仕事中夫は音楽を鳴らすと言いますが、明らかにジャマになっていました。
インタビュアーは帰り、ダニエルが散歩に出かけた後、戻ってくると父親が外で死んでいるのを発見します。
家にいたのはサンドラのみ。不自然な転落死によりサンドラは逮捕されてしまいます。
事故としては考えづらい状況のため、争点は自殺か他殺か。過去に自殺未遂があったとサンドラは主張。旧友の弁護士をたてて自らの無罪を証明しようとします。
ここからは法廷劇。検察側の証人と弁護側の証人がかわるがわる証言しながら物語は進んでいきます。
その承認の中には、第一発見者であるダニエルもいました。
私たち観客は裁判員になったかのような状況に陥り、サンドラが有罪なのか無罪なのかを見極めることになるのです。この結末が単なるミステリーとは違うものになっていくのです。
ポジショントーク
裁判は事実の積み重ねにより真実を導きだします。しかしここにはポジショントークや感情による意見の傾きが存在します。
事故当日にサンドラの他にいたダニエルや、インタビュアーの証言から始まります。検察側はサンドラが、レズビアンだと主張し、インタビュアーを誘惑したのではないかと尋問していきます。
ここは冒頭のシーンを私たちも観ているわけですが、誘惑したというような明確なワードや態度はありませんでした。しかし、そこに下心があったのかと完全に否定できる根拠もありません。
また、ダニエルは両親が話しているところを聞いたと話していましたが、場所の証言が食い違っていることから、その矛盾を突かれます。しかし、ダニエルが母親を守るためにウソをついたのか、本当に勘違いしていただけなのかは私たちにはわかりません。
落下当日の検証についても2人の証人が現れます。検察側は、落下は他者による力が加わらなければあり得ない血のつき方だと主張する一方で、大の男を階上から落とすのは無理だと弁護側は反論します。
それらは論理的に説明され、傍聴する側にはどちらも説得力を持って証言されます。しかし、双方ともシチュエーションをシミュレートしただけであり、確率論にしかならないのです。
私たちが大統領になる可能性がゼロでないのと同じように、自殺も他殺も可能性はありえるのです。
続いては、夫婦仲についてフォーカスしていきます。サンドラは女性と浮気をしていました。夜の性生活がなくなったことを理由に、感情ではなく性欲の発散というふうに主張します。
夫はそのことを知っていて、インタビュアーがいる最中に音楽を鳴らしたのは妻が誘惑していると考えた夫が耳を塞ぐためだった可能性もあります。
音楽は50CentのP.I.M.P。2003年の名曲で、キャッチーでリズム感の良い音楽ですが、女性蔑視のリリックが含まれています。
夫はうつ病を患っており、薬を飲んでいました。セラピストの証言では妻がその原因となっていると話していたと主張します。ダニエルの事故は夫が迎えに行ったときの不注意で起こりました。それを妻に咎められていると。
サンドラもこの点について尋問されますが、最初は弁護士にも夫婦仲について隠していました。
しかし、2人は前日にケンカをしていたことがわかります。
余計なことを言わずに自分を守るためだったのかもしれませんが、サンドラに対しての信頼が薄れていくのを私たちも感じたはずです。やっぱり殺したのではないかと疑ってしまいます。
さらに夫が録音していたテープがここで公開され、さらにサンドラの立場は危ういものになっていきます。
この中には明らかに悪意を持った登場人物はいません。作為的に操作しようとしているわけではなく、事実を積み重ねることで、真実を導こうとしています。しかし、サンドラが主張するように全ての事実はある断面を切り取ったにすぎません。
長い夫婦生活の中で、時には地獄のような関係性になることもあると訴えます。もちろん、それはみな経験しているはずなのにまるで一つの出来事を日常的な物事へとイメージが作られていってしまいます。
録音されたテープはとても険悪でしたが、ヒートアップする前はサンドラは冷静になだめていました。
夫はサンドラを子供の面倒をみない冷たい女だと言っていますが、決して面倒をみていないわけでもなさそうで、子育ての方針の違いのようにもみえます。
そもそもケンカを録音していたことから夫が挑発し、口論を誘発しようとしていたようにも映ります。すでに夫は自殺を考えており、このテープがサンドラの不利に動くように悪意を持って撮られた可能性すらあります。
このように、一見して重大な物的証拠のように見えますが、観るもののポジションによってどうとでも捉えられる恐ろしい内容なのです。
ダニエルは、サンドラが訴えている父が自殺を試みたことがあるという証言の信憑性を確かめようとします。その日は、ダニエルの盲導犬であるスヌープが嘔吐し、具合が悪くなりました。
そのとき父親が吐いた吐瀉物に混じったアスピリンをスヌープが食べたのではないかという仮説を持ち、実際に検証します。結果、スヌープの体調はその当時と同じだったことがわかり、それを証言します。
父が自殺未遂を起こしていたということは、もう一度それが起きることを示唆しています。
ダニエルは確信を感じていましたが、その確信は事件当日の証言で勘違いもしています。ダニエルは母親に一切の証言を無理強いされていませんが、母親を嫌っていないことは明らかです。
全て一緒だと言い切りましたが、人間の脳の記憶は曖昧です。ダニエルが本当のことを語っていたとしても、願望が事実にねじまがる可能性も否定は否定できません。偽りのない主観的な記憶は実はとても危険であるともいえます。
結局のところ裁判官や傍聴する他人、そして私たちが真実を知ることはできません。誰もここでは真実を言いません。あくまで彼らの頭の中の事実を言うのみで、それが真実かどうかは誰にも判断できないのです。
しかし、私たちは少ない材料の中から決断しなければなりません。
妻は有罪が無罪か
お互いの証言は、私たちの価値観に合わせてその実現性を判断されていきます。物語は最後までサンドラが有罪か無罪かを決定づけることはありません。
私たちは今までの証言や状況から決断を迫られることになります。マージがダニエルに”判断するには何かが欠けていたとしても、決断しなければならないこともある”と伝えていました。
不確かな状況の中でも自分の信じるものに従って判断する必要があると物語は伝えています。
それは私たちに向けて話されてもいるのですが、私たちは部外者でもあります。SNSやワイドショーで流れている情報から、一方的な決めつけをすることもありますが、真実はとても曖昧で、どちらに傾いてもおかしくない不安定なものです。
先ほど悪意を持った登場人物はいないと伝えましたが、それは登場人物の表情ややりとりを見るに、明らかな悪人はいないだろうという意味です。しかし、サンドラのダニエルを守り抜こうとする愛は確かでも、一方で夫を突き落とした可能性はあります。
それは故意だったかもしれませんし、録音テープのように口論の末、殴打した時に謝って転落してしまった可能性もあります。先ほど言ったように夫はすでに死を覚悟していて、サンドラに不利になるように口論を録音した後に自殺を試みたのかもしれません。
女性蔑視の音楽を故意に流した可能性はありますが、その真意は夫以外はわかりません。
今や真相を知る者はサンドラのみで、ダニエルを含め裁判員たちはこれらの断片的な事実から真実を導き出す必要があるのです。
コナンくんの名言「真実はいつも1つ」は、フィクションでしか存在し得ないのかもしれません。
あなたは、有罪だと思いますか?無罪だと思いますか?
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