「MOTHER マザー」は、2020年の大森立嗣の映画。
実際に起こった少年による祖父母殺害事件に着想を得た作品だ。
職をもたずに生きる母親と、その母親に育てられた子どもが凄惨な事件をいかにして起こしたのか。
そこには信じがたい関係性が潜んでいた。
主役を演じるは長澤まさみ。清純派から脱皮し、大人の色気を醸し出して30代を迎えた彼女が、今度は行きずりの男と関係を重ねる女を演じる。
この映画を演じるには長澤まさみではきれいすぎるというレビューも見かけるが、本当にそうなのだろうか。
この映画の見どころを紹介していく。
総合評価
69
MOTHER マザー
3.5
Filmarks
3.5
映画.com
3.44
Yahoo映画
3.4
カラクリシネマ
- 長澤まさみをはじめ、役者の演技がすばらしい!
- 醜悪な人間模様があらわす衝撃的な作品
- ずっと胸くそ映画!
- 長澤まさみがきれいすぎる
- 何を描きたいのか分からない
レビューサイト | 点数 |
---|---|
カラクリシネマ | 3.4 / 5 |
Filmarks | 3.5 / 5 |
映画.com | 3.5 / 5 |
Yahoo映画 | 3.44 / 5 |
「MOTHER マザー」映画情報
タイトル | MOTHER マザー |
公開年 | 2020.7.3 |
上映時間 | 126分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ、家族 |
主要キャスト | 長澤まさみ 阿部サダヲ |
監督 | 大森立嗣 |
「MOTHER マザー」キャスト
役名 | 俳優 |
---|---|
三隅秋子 -主人公 | 長澤まさみ |
三隅周平 -秋子の息子 | 奥平大兼 |
幼少期 | 郡司翔 |
川田遼 -秋子の夫 | 阿部サダヲ |
高橋亜矢 -児童相談所の職員 | 夏帆 |
宇治田守 -市役所職員 | 皆川猿時 |
赤川圭一 -ラブホテル従業員 | 中野大賀 |
三隅楓 -秋子の妹 | 上村芳 |
三隅雅子 -秋子の母 | 木野花 |
冬華 -周平の妹 | 浅田芭路 |
「MOTHER マザー」予告
「MOTHER マザー」あらすじ
ゆきずりの男たちと関係を持つことで、その場しのぎの生活をおくる自堕落で奔放な女・秋子。しかし、彼女の幼い息子・周平には、そんな母親しか頼るものはなかった。やがて寄る辺ない社会の底辺で生き抜く、母と息子の間に“ある感情”が生まれる。そして、成長した周平が起こした“凄惨な事件”。彼が罪を犯してまで守りたかったものとは——?
filmarks
「MOTHER マザー」ネタバレ感想・評価・解説
※これより先は核心には触れませんが、あらすじには触れます。
かなりの胸くそ注意
まず初めに言っておくと、「MOTHER マザー」は、全く良い話ではないし、救いがあるわけでもない。
人生を落ちていくわけでもない。最初から真っ暗な闇の底に沈んだまま、ずっと這い上がらないし、這い上がろうともしない絶望的な映画だ。
人によっては不快感しか与えられないこの映画を、長澤まさみが好きだからと言って安易に観ると後悔するだろう。
秋子のネグレクト行為により、息子の周平には友達もいなければ学校にすら行っていない。
ご飯を作るどころか周平に弁当を買ってこさせる始末だし、男遊びをしているときは風呂の中で寝る生活を強いられている。
「悪いコト」を母親に強要され、祖父母や叔母に金を借りに行かされる。
そのあげく、貰ってこれないと罵倒される。
映画「悪人」を思い出すほどに胸くそ展開だし、映画「誰も知らない」と比べても母親が近くにいる分、精神的ダメージを与え続けられるので、こちらの方がより重い。
秋子が叫ぶ「しゅうへい!」という言葉は、周平本人が思考を停止する呪いの言葉にもなっているが、この映画を観終わる頃には、私たち観客にも重くのしかかる言葉になっているだろう。
問題はこの事件が実際に起こっていて、リアルの方がより重く苦しいのだということだ。
母と子の共依存を描いた映画
母親が子どもの面倒を見ない育児放棄、いわゆるネグレクトの話なのだけれど、この映画は教育を受けさせない、食事を作らないなどの行為には及ぶし、過度の罵倒はするものの、決して見捨てることはしない。
一時的に離れることはあったが、ほとんどの間を子どもと行動を供にしている。
しかし、それは愛情というよりも秋子が誰かに依存していないと生きられないからだ。
秋子の生い立ちについては、ほとんど言及はない。
家族でいるときに1つだけ話していたのは、姉妹間の対応の格差だ。
長女に厳しく末っ子には甘くなるソレかもしれないし、秋子は頭も悪く可愛げがなかったのかもしれない。
家族の中でしか分からないことではあるが、少なくとも秋子はそう感じていたし、その孤独から行きずりの男を捕まえては愛を確かめようとする。
そして、周平は、そんな母親のもとから逃れられず、必要とされることで自分の存在を認識して生きている。
この映画では11才~17才までを描いているが、思春期を経て大人になるにつれて変わっていく、変わろうとする彼の心の動きにも注目してほしい。
長澤まさみはきれいすぎる?
内容がいわゆる社会の底辺であるがゆえに、長澤まさみが演じるには美しすぎるという意見もある。
長澤まさみは10代でデビューし、「世界の中心で愛を叫ぶ」でブレイク。
清純派で進んでいたが、20代に美脚を武器にしてさらに一段階進化を遂げた。そして30代を迎えてさらにもう一段階大人の女性としての魅力を増してきた女優だ。
そして今回「MOTHER マザー」ではその魅力を極力排除して社会の底辺を生きる女性を演じている。
しかし、そのあふれ出る色香は抑えきれていないのが実際で、そこに少し異論が出ているのは確かに納得だ。
例えばホームレス生活をしているときでさえ、そのエロスは抑えきれていない。
確かにそこには違和感が残る。
何日も風呂に入っていないはずの女性が、いくら素がキレイな女性といっても、路上生活を続けていてキレイなままでいられるはずがないのだから。
しかし、思うにこれはこれでよかったのだと思う。
秋子という女性は男に依存していたし、ある意味で男を惹きつける色香は出していないといけないのだから、そこに若干の違和感があったとしても、やはり必要な要素である。
それにもう1つ、この映画の内容で本当にみすぼらしい女性が男への依存を繰り返し、息子をおざなりにするようなシーンばかり見せられては、120分という時間は長すぎる。
例えそれがリアルであったとしても、私には心が耐えられない。
そういう理由で、これは長澤まさみでちょうどよかった。
実際、子どもに対する歪んだ感情の表現はとてもおぞましく、長澤まさみの怪演が光っている。
清純派から色気を経て、それを封印しようとした「MOTHER マザー」。
これが彼女の新たなる境地になるかどうかはまだ分からないが、歳を経るごとに求めるニーズに合わせて変化してきた彼女は、今後数年でまた変わっていくのだろう。
その変化のはじめとして期待したい。
新人・奥平大兼とは
新人俳優、奥平大兼の存在も忘れてはいけない。
長澤まさみの演技だけでなく、彼の存在がこの世界の悲壮感や脱力感を演出し、歪んだ愛の結果を示している。
2003年生まれの彼は、演技は未経験の大抜擢だ。
柳楽優弥のようにこの映画から頭角を現していくのか、今後が注目の若手俳優だ。
そして、阿部サダヲという喜劇系の役者が入ったことも良かった。
その演技たるやコメディアンとしての彼しか見たことなかったので驚きだったが、それでもそのギャップがあるからこそ、この気持ち悪く胸くそ悪い映画がなんとか心を壊さずに見ることができるのだ。
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上映時間 | 141分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ、家族 |
主要キャスト | 柳楽優弥 YOU |
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filmarks
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こんなにも胸くそ悪い映画はなかなか出てこない。ピエール瀧やリリー・フランキーの悪事を暴いていくのがこの映画の肝だが、同時進行で暴いている記者・山田孝之の家庭事情にも暗雲がさしている。この暗さが一番身近でリアルで怖い。
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