「聲の形」は、2016年のアニメ。京アニ制作で山田尚子監督作品。
興行収入が23億円を突破するほど人気の作品だが、同年に「君の名は」が社会現象を起こしたことで少々埋もれてしまった感は否めない。
「君の名は」が、何も考えずにただただ楽しめるエンターテイメント作品であるのであれば、「聲の形」はイジメを題材とした深く考えさせられる作品だ。
ただし、京アニが作る音楽やアニメーションのクオリティもあって、単純な暗くて重い作品にはなっていないので、かしこまらずに観て欲しい。
名だたる声優陣が名を連ねる中、主人公に松岡茉優が出演することも注目だ。
今回は、その中に登場する人物の中でも悪評の高い「川井みき」について言及する。
総合評価
80
聲の形
3.8
Filmarks
4.0
映画.com
4.1
Yahoo映画
3.9
カラクリシネマ
7.62
Rotten tomatoes
8.2
IMDb
- めちゃくちゃ泣けるし考えさせられる
- 「君の名は」より好き
- 心が痛くなる映画
- 少し都合が良すぎる
- いじめが根底にあるのが苦手
「聲の形」映画情報
タイトル | 聲の形 |
公開年 | 2016.9.17 |
上映時間 | 129分 |
ジャンル | 青春、アニメ |
主要キャスト | 入野自由 早見沙織 悠木碧 |
監督 | 山田尚子 |
「聲の形」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
石田将也 -主人公 | 入野自由 幼少期:松岡茉優 |
西宮硝子 -耳が聞こえない | 早見沙織 |
西宮結絃 -硝子の妹 | 悠木碧 |
永束友宏 -高校の同級生 | 小野賢章 |
植野直花 -小学校の同級生 | 金子有希 |
佐原みよこ -小学校の同級生 | 石川由依 |
川井みき -小学校の同級生 | 潘めぐみ |
真柴智 -高校の同級生 | 豊永利行 |
「聲の形」あらすじ
ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。「いい奴ぶってんじゃねーよ。」自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。「俺と西宮、友達になれるかな?」再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが――。
filmarks
「聲の形」ネタバレ感想・解説 川井はほんとうにクズなのか
聲の形は、いじめを題材とした作品
イジメとは、人間が集団生活するにあたるうえで避けては通れない重苦しいテーマ。
「いじめはダメ、絶対!」そんなことはみんな分かっている。けれども、現実に起きてしまうのがイジメなのだ。
石田や島田のように分かりやすくイジメる奴もいれば、植野のように表立って「ムカつく」ことを表明する奴、そして川井のように直接的には関与しないけれど、その行為を積極的に諫めることもせず、その場の空気をおもしろがっている奴。
そしてイジメられる側の硝子や、佐原。
「聲の形」ではイジメについていろんな立場の人間を描いていて、決して誰か1人を悪と決めつけることはしていない。
学校生活を営んでいると、どれかに属してしまう。傍観者にはなれない。そして、誰か1人の立場でもない。
イジメられることもあれば、その逆にイジメに加わることもあるし、冷ややかに見ているだけの場合もある。
だからこそ「蝉の形」を観ていると、気分が悪くなる人も多い。
人間は2種類のタイプがある
イジメに限らずストレスのある出来事が起きたとき、人間の行動は2つの選択肢に分かれる。
「自分を責める者」と「他人を責める者」だ。
どちらが正しいというわけではないけれど、前者は自分を攻撃する自傷行為に走りやすい。
ここでいう石田と硝子は「自分を責める者」として描かれる。
硝子はイジメられているからではなく、イジメという事実に向き合ったときに「自分が悪かった」と考える。イジメる人がひどいのではなく、自分に落ち度があると考える。さらに、石田と友達の間に亀裂が入ったとき、何よりも自分を責め、自殺を図っている。
石田も同じだ。
彼はイジメたことを後悔しているので、自分を責めるのは当然ではあるのだけれど、同じイジメ行為を行っていた島田や植野への恨みよりも自分の行為を悔やんでいる。
170万円もの大金を1人で払い、母親に大きな迷惑をかけているが、それを理由に彼らを責めてはいない。その結果が冒頭の自殺未遂に繋がっている。
島田や植野は典型的な「他人を責める者」だ。石田は人をイジメる悪いやつだから、何をしてもいい。硝子のせいで仲間がバラバラになってしまった。という風に誰かのせいにして自分の行いを正当化する。
そして川井。彼女は心の底から自分は何も悪くないと思っている。確かに直接的にイジメに加わっているわけでもないし、優しさを見せる場面もある。かといって、積極的に守るような行動もしていない。自己性愛の極みのような人間で、その善人面が特に評判も悪い。
一見、他人のせいにしない行動は人間として良く出来ているように見えるが、代わりに自分を攻撃しているので、その代償は大きい。
一方、他人のせいにできる人は、自己肯定感を高める結果に繋がり、現実世界を楽しめることが多い。
「他人のせいにする者」は悪なのか
では、「他人のせいにする者」は悪なのか?
答えはNOだ。
すべての事象において、なにかしらあなたに落ち度はある。そのように考えればいくらでも落ち度は出てくる。どんなことにも絶対的な悪はなく、どんなことにも自分の正義があるだけだから。
自分の中の正義が揺らぐと自分を攻撃するということは、自分の存在価値を全否定することに他ならない。
逆に、他人を責めているとき、あなたの中には怒りがあるだろう。だから死を選ぶことはない。怒りというのはそれほど強いパワーを持っているからだ。
ただ人間には2種類存在するという事実があるだけだ。
イジメに限らず日常生活において、人間同士が関わる以上大なり小なり起きていることだ。
川井はクズなのか
というわけで、川井はクズかと言われると、特筆してクズではないと考えている。天然なのか計算なのか、自分を良く見せたいという願望のもとに行動を起こしているだけだ。
事実、直接的なイジメはしていないし、イジメを辞めるようにも言っている。(それが本気かどうかは疑わしいけれど)
石田に責められたときに、周りに聞こえるように過去を言いふらしたり、千羽鶴を折って、好感度を上げようとするなど、目を疑うような発言や行動はあるけれど(実際あまりに素で話すので、自分の記憶違いか混乱してしまった)、ただそれは自分を良く見せたいだけに他ならない。
イジメという集団で少数の人間に攻撃することが絶対的な悪であり、この中の誰かが悪というわけではないということは理解しなければならない。それぞれみんなが自分の正義を持って行動している。
悪という線引きはなんなのか
では、悪という線引きはなんのか。
仮に悪の定義を「人が嫌がることをする行為」だとするならば、植野に嫌な思いをさせた硝子も悪になる。
硝子のサポート役をしていた分、植野は自分のノートをとれなかったり、空気を読まずに話題に入ってきて迷惑に思われている行為も散見される。
それは硝子が悪意を持って行った行為ではないけれど、悪意がなければ何をしてもいいわけではないので、そこは悪の定義に反しない。
結局のところ、人が集まれば、自らの正義と悪が存在し、そのうえで少数派は多数派に負けてしまうという事実が分かってしまう。この映画、観ればみるほど苦しくなる。
単純ではなさすぎて、みんな何かに心当たりがあって、みんな何かしらの罪悪感を抱えていて、自分が被害者になるという苦しみと自分が無意識のうちに加害者になっているかもしれないという恐怖に怯え、何も考えずに誰かを攻撃していい作品ではない。
誰が悪いかを考えるのは、この映画の本質ではない。
あなたの1つ1つの行動が「バタフライエフェクト」的にイジメに繋がっている事実を知っておくべきだし、優しさだと思っていた行為が誰かを追い詰める結果にも繋がっているのかもしれない。
そしてもちろん、必ずしも悪い方向だけではなく、誰かの助けにも繋がっているのかもしれない。
それを知っておくだけでもこの映画は観ておいて損はない。
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