「日本沈没2020」は、Netflixのオリジナル映画。
監督は湯浅政明。映画「クレヨンしんちゃん」の絵を数多く担当し、自身の監督作品として「きみと、波にのれたら」や、TVアニメ「四畳半神話大系」、「ピンポン THE ANIMATION」などを手掛けている。
「日本沈没2020」は、そのタイトル通り日本が沈没していく天災の話であり、過去にも実写で映画化されている。
大きな犠牲者と祖国が失われていく様には絶望しかないのだけれど、この苦しい世界を「日本沈没2020」の世界では淡々と描いている。
どんでん返しがあるわけではないが、話の展開が予想の斜め上すぎていて惑わされる映画でもある。
監督のツイートを見るに「裏切られることを楽しんで欲しい」とあるので、期待通り裏切られていくと楽しめるよというのがこの映画。
アニメーションも独特で、めちゃくちゃエンタメかと思えばなかなかクセのある映画でもあり、少なくともピンポンが好きだった人達はこの作品にも愛着が沸くだろう。
海外でも評価は真っ二つに割れている。
そして私は評価が高い方に票を投じたい。
悪い方だけ見てしまうとなかなかもったいない映画なので、その見どころを解説する。
総合評価
80
日本沈没2020
–
Filmarks
–
映画.com
–
Yahoo映画
4.0
カラクリシネマ
–
Rotten tomatoes
6.8
IMDb
- 湯浅正明監督の芸術で個性的なスタイルが表現されている
- 悪いところもあるが、エモくてラストは泣ける
- 今年観た中で一番笑える映画
- 1話は良かったが、それ以降は下降していく
- 話が唐突すぎる
「日本沈没2020」映画情報
タイトル | 日本沈没2020 |
公開年 | 2020.7.13 |
上映時間 | 全10話(各話25~30分) |
ジャンル | 災害 |
主要キャスト | 上田麗奈 村中智 |
監督 | 湯浅政明 |
「日本沈没2020」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
武藤歩 -主人公 | 上田麗奈 |
武藤剛 -歩の弟 | 村中知 |
武藤マリ -歩の母 | 佐々木優子 |
武藤航一郎 -歩の父 | てらそままさき |
古賀春生 -引きこもりの元陸上部 | 吉野裕行 |
三浦七海 -歩の近所の知り合い | 森なな子 |
カイト -ユーチューバー | 小野賢章 |
疋田国夫 -スーパー店主 | 佐々木梅治 |
室田叶恵 -シャンシティのトップ | 塩田朋子 |
浅田修 -叶恵の秘書 | 濱野大輝 |
ダニエル -シャンシティへの道中であった喜劇芸人 | ジョージ・カックル |
「日本沈没2020」予告
「日本沈没2020」あらすじ
2020年、平和な日常が続く日本を襲った突然の大地震。
都内に住むごく普通の一家。武藤家の歩と剛の姉弟は大混乱の中、家族4人で東京からの脱出をはじめるが、刻々と沈みゆく日本列島は、容赦なく彼らを追い詰めていく。極限状態で突きつけられる生と死、出会いと別れの選択。途方もない現実と向き合う中、歩と剛は未来を信じ、懸命に生き抜く強さを身につけていく。
日本沈没2020公式
「日本沈没2020」のおもしろいポイント解説 ネタバレ感想
※これより先はあらすじ含めてネタバレします
その1)残酷な描写
まず、「日本沈没2020」は、ちょっとばかりグロい。最初の地震のシーンでは人が血を流して倒れているし、当たり前のことではあるが、かなり現実感のある描写になっている。
手が吹き飛んで来たり、鳥が死体を食べていたり、直接的な描写は薄いけれど、アニメならではの表現だからこその気持ち悪さを残している。
数百、数千万人の人間が亡くなるほどの災害なのでそれが普通なのだけれど、どういう描写にするかによって印象は変わってくる。
エンターテイメント色が強いと思っていたので大きく印象が変わったところだ。
その2)主要キャラでもモブキャラでも死は平等に訪れる
とにかく衝撃的であり、酷評の1つの理由になっているのが、キャラが死んでいくシーン。
登場人物が誰であってもお構いなしでどんどん死んでいく。
どんな話でも主要人物はなかなか死なないのが普通だし、例え死ぬとしたらもっと伏線や布石が存在するものだ。
だがこのアニメにはそれがない。
唐突に死が訪れる。
しかし、それが死の恐怖を極限まで高めてくれることになる。
映画でもドラマでも主要キャラがどんな危ない目に遭っていたとしても「どうせ死なないでしょ」という目で観ていることはないだろうか?
このアニメにはそれが通用しない。
父親の死、七海の死で、いつだれが死んでもおかしくないという不安に襲われることになる。
弟の剛だって、主人公の歩だって、何の脈絡もなく命を失うかもしれない。
その気の休まらない恐怖をこの映画では感じることができる。
その3)登場人物のバックグラウンドは深く語られない
もう1つ、こういうサバイバル映画では、知らない者同士が集まり、だんだんとその人物の背景が明らかになっていくことが多いのだけれど、「日本沈没2020」では結局語られないことが多い。
語られたとしても、とても断片的だ。
例えば古賀先輩は昔短距離走の選手だったはずだけれど、震災時には引きこもりになってしまっている。
しかし、ここも何も語らない。
おそらく挫折があったのだと思うのだけれど、詳細は不明なままだ。
途中で出てくる国夫も、妻と小売店を営んでいて、孫もいたのは分かるのだけれど、なぜモルヒネ常習犯になってしまったのかはわからずじまいだ。(そもそも日本の田舎でモルヒネ中毒というのもなかなかすごい設定だけど)
シンシティの親子のことも分からずじまい(あれはAKIRAのオマージュ?)
カイトも最後までYOUTUBERということ以外は不明だし、シンシティに行く道中で出会ったダニエルもなぜあそこに留まったのか不明だ。
日本の沈没を予知した小野寺もなぜ動けなくなったのか、なぜシンシティにいたのかは一切明かされない。
思わせぶりな演出が、なんでもなかったりする。
このように、いつだれが死んでもおかしくないのと同時に思わせぶりな演出が何の伏線にもなっていなかったりする。
怪我についても同じことが言える。
1話で剛が目を怪我して登場したときにはドキッとさせられたが、数秒後には何も問題がないと分かったし、古賀先輩が富士山の噴火で怪我したときも、思わせぶりな血のシミを残しつつ、それが原因で重大な何かが起こるわけでもない。
その代わりに歩の怪我はやっぱり深刻で、足を切断する結果に繋がってしまう。
使者の声が聞こえるシンシティもそうだ。
歩の父親の声を聞くのかと思えば、全くその気配もなく終わりを迎える。
こういうところがドラマチックさに欠けていて、だからこそドキュメンタリーを見せられているような現実感が漂う。
かと思えば、船の難破で漂流した後、離ればなれになった3組が奇跡的に合流できるというトンデモ展開もある。
人工呼吸にしたって母親は助からないが、同じようにダメだと思われた小野寺は助かる。
一寸先は闇にも光にもなりうる。
それがこのアニメの最大の魅力なのだ。
その4)ナショナリズムでもあり、ダイバーシティでもある
エンディングで、剛が日本代表としてeスポーツに出場したときに放った言葉。
「別にエストニアでもよかったのだけどね」
は、この映画がナショナリズムでもダイバーシティでもないし、逆にそのどちらもあり得ることを示している。
作中、歩たちがラップで今の日本に対する想いを伝える場面がある。
日本という国を日本人はネガティブに言うことも多いことを嫌っている反面、
日本はやっぱり美しくて、日本に住む人たちは気遣いができて、人のことを思いやることができる民族だ。
時にそれはネガティブに捉えられるけれど、それも含めて日本という国が素晴らしいと伝えている。
と同時に、日本という国に縛られることもなく、色んな人が色んな場所で自分が誰といるかを決めれば良いとも言っていて、それらのメッセージをラップバトルで軽快に決めている。
なぜ急にラップバトル?のわりには上手すぎないか?
とツッコミもあるだろうけど、この真面目すぎて恥ずかしくなるセリフは日常会話で出すと演じている感が強くなりすぎるので、歌にのせて正解だ。
ちなみにラップバトルは日本語で聞くと素人がいい感じにラップしている風に聞こえるけど、英語で聞くとプロ感が出てかっこいいので一度視聴をおすすめする。
あまりにも上手すぎて現実離れしてしまうけれど。
その5)下手のようでめちゃくちゃうまい絵コンテ
下手という言い方をすると非常に失礼なのだが、「日本沈没2020」の絵は人をかわいく見せたり、美しく描いたりしているわけではないので、作風が受け付けない人もいるだろう。
今回の絵は「ピンポン THE ANIMATION」と非常に似ている。
これは、原作者の松本大洋に合わせた画風なのだけれど、その作風は「日本沈没2020」にも表れている。
この躍動感やシュールさは、このアニメの真骨頂であり、この絵が気にいったなら「ピンポン THE ANIMATION」もぜひ見て欲しいし、松本大洋の原作もいくつか見て欲しい。
日本なのに出てくる登場人物の海外比率の高さが気になるけれど、Netflixで全世界に発信しているので、せっかくなのでぜひ日本のアニメの素晴らしさを知って欲しい。
この映画を全員が称賛する必要はない。
だが、この映画を通じて日本のアニメーションの表現力の豊かさを知ってもらえるはずだ。
「日本沈没2020」を観たならこれもおすすめ
松本大洋の描く対照的な2人
「ピンポン
THE ANIMATION」
原作の世界観をここまで再現できるとは
タイトル | ピンポン THE ANIATION |
公開年 | 2014 |
上映時間 | 全11話(各話約23分) |
ジャンル | スポーツ、青春 |
主要キャスト | 片山福十郎 内山昂輝 |
監督 | 湯浅政明 |
春。片瀬高校の体育館。卓球部の顧問・小泉丈はメガネのカットマンがいるのに気づく。今年入部した期待の二強の片割れ、月本誠(スマイル)だ。そのころもう片方の片割れ、星野裕(ペコ)は、タムラのオババがやっている卓球場で、挑戦してきた一般人をカモにしていた。幼い頃、スマイルを卓球に誘ったのはペコ。対照的な性格の二人だが、今も行動をともにすることは多い。部活をさぼって辻堂学院高校まで足を伸ばした二人。そこには中国からの留学生・孔文革がいた。
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松本大洋の「ピンポン」をアニメ化。原作のもつ躍動感をそのままにアニメーションでさらに昇華した作品。ペコとスマイルという対照的な2人が卓球を通じて成長していく過程を描く。原作ファンからも評価が高い。
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