デンマーク人の牧師がアイスランドの地を訪れ、言語・文化・信仰の違いによるコミュニケーションのズレを描いたドラマ。
舞台となる19世紀後半のアイスランドはデンマークの植民地。教会を建てるべくアイスランドの山奥の村へ向かい、旅を続けるロードムービー。
デンマーク人の牧師ルーカスが植民地アイスランドに布教の旅に出る。
辺境の地に教会を建てることを目的とし、通訳と道案内人のラグナルらと共に村を目指す。
しかし、村までの道は流れの強い川、過酷な山岳、自然の脅威は凄まじく想像を絶する厳しさとなった。
ラグナルとは対立し、さまざまなアクシデントに見舞われたことで、ルーカスは狂気の淵へ落ちていく。
瀕死の状態でたどり着いた村で待っていたのはー。
見渡す限りの草原、断崖絶壁の山々、透き通った川、そのすべてのシーンにおいて絶景には目を見張るものがあり、重々しくも荘厳で雄大な自然を見ているだけで圧巻な映画。
セリフも少なめで大きな盛り上がりもない映画ですが、その自然を見ているだけである種のカタルシスを得られる感覚に陥ります。
日本も自然が豊かですが、北海道と九州ほどの大きさのアイスランドには全く別次元の自然が広がっており、現代でも手付かずの自然が多く残っているほど。
その中に単身で乗り込んできたルーカス牧師が、自然の厳しさにさらされつつ、地元民たちとコミュニケーションをとっていきます。
規律を求めるルーカスと、自然のままに生きるアイスランド人。
よそ者を警戒する村人や都会に憧れる娘など、さまざまな価値観が入り乱れ、ルーカスはある決意をするのです。
アイスランドとデンマークの関係性など、なかなかわかりにくい映画でもありますが、アイスランドの自然を見るだけでも価値のある映画です。
アイスランドの基本情報から映画のあらすじ、そして映画のテーマについてまで解説していきます。
映画「ゴッドランド/GODLAND」ネタバレ感想・考察
アイスランドの基本情報
- 北海道と四国を合わせたぐらいの面積
- 人口約35万人
- 氷河と火山が多い
- オーロラが見られる
アイスランドは、北大西洋に位置する島国です。ヨーロッパと北米大陸の間にあります。
アイルランドと混合してしまいがちですが、イギリス領もあるグレートブリテン島の隣にあるのがアイルランド島。
アイスランドはさらに北上した位置に存在する孤島です。
人口は約35万人、面積は103,000平方キロメートルで、北海道と四国を合わせたほどの大きさです。
アイスランドは、「氷と炎の国」と呼ばれることがあります。これは、国土の多くが氷河に覆われている一方で、活火山も数多く存在しているためです。
また、世界でも有数のオーロラ観賞スポットとしても知られています。
アイスランドの主な産業は漁業、観光業、アルミ精錬です。
近年は、地熱発電や水力発電などの再生可能エネルギーの開発にも力を入れています。
火山があるため、アイスランドでは温泉も有名。
どことなく同じ島国である日本に通じるものがありますが、北極圏に近いため、年間を通して気温が低いのが特徴。
とはいえめちゃくちゃ寒いかといえばそうでもなく、日本の秋から冬ぐらいの温度感が続いています。
ゴッドランド/GODLANDでも登場人物はわりかし薄着なのは、本格的な冬が到来していないというのもありますが、常に寒いわけではありません。
また、火山や温度、強い風の影響で高い樹木が育たないのも日本と異なる点。
基本的に森というものがなく、低木か水を含んだ草原が広がっています。
国土の10%が氷河で覆われているため水資源も豊富で多くの湧き水があるのも特徴的な国。
映画の中の自然
そんなアイスランドの雄大な自然をずっと拝めるのが「ゴッドランド/GODLAND」という映画。
湿地帯、川、草原、断崖絶壁の山々、絶景の滝、氷河。
どれを見ても日本にはない美しさがあり、映画は自然の偉大さをこれでもかというほどカメラに収めます。
時折、ルーカスたちが米粒大ほどになるほどに遠い地点からの映像が映りますが、これは自然の雄大さと、そこに存在する人間の小ささを思い知らせる効果があります。
これが映画の肝であり、人間が信仰する宗教とアイスランドの対立という世界観を表しているのです。
2時間半という比較的長い上映時間で、セリフも少なく盛り上がるシーンもありません。
しかし、ドキュメンタリーのように雄大な自然を見ているだけでもあっという間に時間が過ぎるので退屈することはありませんでした。
映画「ゴッドランド/GODLAND」は実話なのか?
物語の冒頭で、19世紀にアイスランドで撮影された写真からインスパイアされた物語だと表示されますが、特に実話というわけでもありません。
監督自身、アイスランドで生まれ、デンマークで育ちました。この映画は自身の経験を元に作られた創作映画です。
監督は、当時アイスランドとデンマークを行き来していた船の乗組員のことを調べ上げ、食生活や睡眠場所、氷河の上でのコーヒーの淹れ方など、映画にも細かくリアルに描写しました。
ルーカスは、この地を訪れ布教活動に精を出します。浜辺から辺境の村まで馬を使って何日もかかります。
途中には大きな川もあり、馬に乗ったままでは登れないような山もあります。
その過酷さにルーカスの心は次第に疲弊していきます。
また、途中の道でアイスランド語の通訳をしていた男が溺れ死に、言葉もわからない人々と行動することもかなりの負担になっていました。
道案内人のラグナルとは折り合いが合わず、直接的な衝突はないまでも、円滑なコミュニケーションが取れているとはいえない状況。
貴重で枚数に限りのあるカメラでの撮影に失敗したり、馬を連れての山登りに限界を迎え、過酷な旅路でルーカスの心は完全に折れてしまいます。
家に帰ることばかりを願い、神に祈り続けますが、心の拠り所である神は自然を前に何もしてくれません。
ルーカスはますます狂気の深淵を見ているかのような恐ろしい表情に変わっていくのです。
宗主国と植民地。
人間と自然
文化と言語の違いを、監督の実体験をもとに描いたのがゴッドランドです。
ニュアンスが伝わりづらいところがありますが、興味深いテーマで作られています。
ここからはネタバレ込みで話しますので、ご注意ください。
映画「ゴッドランド/GODLAND」のテーマ
分かるようなわからないような、直感的にメッセージが伝わりにくい映画。映画の持つテーマについて話します。
ルーカスは植民地支配者の象徴
アイスランドの地に住む人は、デンマークの宗教にあまり興味がなさそうでした。
ルーカスの他、この物語の主な登場人物はカールと年頃の娘2人、姉のアンナとイーダ。そして村まで案内してきたラグナルです。
わざわざ山奥の村までやってきたルーカスに対して丁重におもてなしをしているように見えますが、その一方でカールは、自分の娘がルーカスと仲良くすることに反対でした。
道案内人のラグナルだけでなく他の人間たちもあまり良い感情を持っていない人がいて、露骨な表現は少ないですが、言葉が通じなくてもルーカスは察していきます。
また、歩み寄ろうとしないのは、ルーカスにも言えます。
ルーカスは、親デンマークのアンナとは仲良くしていますが、それ以外の人間に優しく接することはありませんでした。
異文化の交流を通じて自身の経験を積むように言われたルーカスでしたが、異文化を受け入れようという心は持ち合わせていません。
現地の人々の文化を大事にするつもりも特になく、敬意を払っているようにも見えません。
「キリスト教の教会を建てて、オレの説教でみんなを救ってやろう」と無意識ながらに思っている気すらします。
植民地とそれを統べる本国という関係性が、ルーカス自身にも染み付いているようでした。
自然と共に生きるアイスランドの人々は常に自由です。
やらされている感とやってやってる感が相対することで、お互いのコミュニケーションはうまくいかなくなっているのです。
ルーカスとラグナルの対立
ルーカスとラグナルの対立は征服者としてのデンマークの聖職者と、植民地としての本国への抵抗を表しています。
彼ら2人の対立は、お互いが言語を理解しない場面から始まります。
その緊張感はずっと続き、観ている側は爆発がいつ起こるのかをヒヤヒヤしながら見守ることになります。
途中、ラグナルがどうやったら神の子になれるのかという問いを投げかける場面など、歩み寄ろうとするところもありますが、ルーカスは完全に心を閉ざしています。
信仰を広めようとやってきたルーカスは、完全に上から見下ろす形で布教しようとします。
相手に歩み寄ろうともせず、半強制的に何かを強いる行為は明らかに支配者と従属関係の差を表しています。
しかし、デンマークからアイスランドの辺境の村にまでやってくるのは簡単ではありません。
大自然を前に命を落とすほどの危険性があるほど遠い国に支配されていると言われても、植民地意識も低いのは間違いありません。
そんな地でルーカスは、自分の立場が上だという考えが揺るがないのです。
差別や階級に関する露骨な表現はありませんが、このちょっとした意識の違いがこの映画の本質を表しています。
ただ、ラグナルは歩み寄る気もなかった可能性もあります。
「祈ればなんでも赦されるんだろ」と言わんばかりに馬を殺したことを打ち明け、怒りの頂点に達したルーカスに殺されてしまうのです。
限界を迎えたルーカスは、新しく建てた教会で職務を遂行しますが、外にいる犬が吠えて邪魔をします。
追い払おうと外に出るとぬかるみに足を取られて転んでしまうのです。
ルーカスは、大事な聖職者としての服が泥だらけになったのを見て、決心します。
「やってらんない」と。
そして、突然馬を奪って逃げ出すことになるのです。
逃げたルーカスをカールが追い、その場でルーカスを殺してしまいます。
どちらも歩み寄らなかった結果、最悪の悲劇が起きてしまうことになりました。
お互いの心は近づくことのないまま物語は終わりを迎えます。
ラストで白骨化したルーカスを見てイーダが「もうすぐ草花が生えてきて囲まれる。とても美しいことなの」と伝えますが、アイスランドの人たちにとっては信仰心よりも自然の方が偉大だと感じさせる場面です。
目立った宗教的対立も、植民地化もされていない日本人には少しわかりにくい話ではあります。
しかし、結局はコミュニケーションの話。
どちらが良い悪いの話ではなく、わかり合おうとしなければ、離れるかいがみ合うしかないのです。
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