クリストファー・ノーラン監督の最新作「オッペンハイマー」。
海外では2023年に公開となったものの、そのセンシティブなテーマから日本での公開は延期されていました。
しかし24年春にとうとう公開。
オッペンハイマーが原爆を作った背景とその後を描いた物語。
史実を元にノーランらしい重厚で肉厚な音楽と時系列が入れ替わる演出で物語は進んでいきます。
しかし、そこに出てくる登場人物が大量で、説明のないまま進みます。
誰が誰なのかわかりにくく、とにかく混乱します。
原爆について熱心に勉強をした人でもなければ、知っていることと言ったらこれぐらいではないでしょうか。
太平洋戦争で原爆が落とされたこと
爆心地は日本の広島と長崎
「マンハッタン計画」で原爆は生み出された
最初に原爆を作ったのがオッペンハイマーであること
その知識量の中でキャラクターが入り乱れるだけでなく、時系列を捻じ曲げながら過去と現在、複数の視点が交差して進んでいくので頭の中の整理は追いつくはずがありません。
物語はオッペンハイマーの視点と、AECの長官であるストローズの視点で進みます。
カラーがオッペンハイマー/モノクロがストローズの視点。
ただし、その中でも時系列はバラバラに進みますので、色の判断で年代がわかるわけでもありません。
- オッペンハイマーが原爆を開発する1930年代〜45年
- 1947年オッペンハイマーとルイス・ストロース、アインシュタインが池で出会った1947年
- オッペンハイマーがソ連のスパイ容疑をかけられる1954年
- 原子力委員長ルイス・ストロースの聴聞会が開かれた1959年
メインストーリーはオッペンハイマーが学生から原爆を作るまでの1930年から40年代までを描いています。
途中に挿入されるのは1954年に起きたソ連のスパイ容疑をかけられた聴聞会でのこと。
モノクロ映像はストロースの視点で進みます。
これは1959年に開かれた米国商務長官の任命に際する公聴会でオッペンハイマーとの関係性を聞かれるところから始まります。
その中にもオッペンハイマーとの回想シーンが描かれていくので、より複雑な構成をなしているのです。
結果、登場人物、時間軸で混乱し、一回の視聴で理解するのは決して不可能です。
余計なものは意識せず、原爆が作られる過程までを描いたドラマとしては見応えがあるため、それだけでも楽しめます。
しかし、なぜ原爆が作られるに至ったのか、良くも悪くも戦争を終わらせるきっかけを作ったオッペンハイマーが、なぜスパイ容疑をかけられることになったのかについては、背景を知っておくとより理解が深まります。
というわけで今回は、時の流れを正常に戻しつつ、オッペンハイマーのに関わった各キャラクターの関係性とその人物像を背景と共にシンプルに説明していきます。
この動画はネタバレありで話します。
普段はネタバレ反対派ですが、この映画は絶対知ってから観た方が楽しめます。
▼動画解説はこちら
映画「オッペンハイマー」大学時代
オッペンハイマーは、ドイツからのユダヤ系移民としてニューヨークで生まれたアメリカ人。
ハーバード大学に入学し、主席で卒業、それからイギリスのケンブリッジ大学に留学し、実験を伴う化学を専攻していました。
物語もケンブリッジ大学在籍中から始まります。
その頃のオッペンハイマーは実験的な研究で成果を上げることができず、ホームシックに悩んでおり精神的にも追い詰められていた状況。
成果を残せないオッペンハイマーに辛辣に当たっていたのがパトリック・ブラケット教授です。
パトリック・ブラケット
オッペンハイマーが在学中、りんごに毒を注入し殺害しようと試みるシーンがありますが、ここに登場しているのがパトリック・ブラケット。
オッペンハイマーに精神的苦痛を与えた人みたいになってますが、ノーベル物理学賞受賞者のすごい人です。
この時はオッペンハイマーの年齢は21歳ごろ。
ちなみにこの話は証拠があるわけでもありませんし、映画と同じように食べることもありませんでした。
ニールス・ボーア(ユダヤ人)/ケネス・ブラナー
同じく大学時代に出会ったのがニールス・ボーア。
ケンブリッジ大学で燻っていたオッペンハイマーに、理論中心の物理学を学ぶように薦めた人物です。
量子力学を研究するニールス・ボーアに憧れてオッペンハイマーはドイツにあるゲッティンゲン大学へ移籍することになります。
理論物理学とは
理論物理学は、数学や論理を使って、宇宙や自然界の仕組みを理解しようとする学問です。
実験や観察ではなく、理論的なモデルや推論に基づいて研究を行います。
- 数学や論理を駆使する
- 実験や観察に頼らない
- 宇宙や自然界の根源的な法則を探求
宇宙や自然界の仕組みを理解するための強力なツールなのです。
この理論物理学を使って特殊相対性理論(E=MC2)を発見したのがアインシュタインです。
特殊相対性理論は、光速で動く物体の性質を説明した理論。
光速に近い速度で運動する粒子によって核分裂や核融合が起きるため、この理論は原爆開発の基礎にもなっています。
だからこそアインシュタインは、原爆の開発を危惧したのです。
ヴェルナー・ハイゼンベルク
この時期に出会ったのが、ヴェルナー・ハイゼンベルク。
ドイツの物理理学者で量子力学の基礎を築いた1人。
ただ、オッペンハイマーはドイツで彼の講義を聞いていますが、それ以降は会っていません。
また、ドイツ人でナチス側の原爆開発チームの科学者であったため、マンハッタン計画にはもちろん関わっていません。
物理学界において凄まじい功績を残したものの、ナチスに関わってしまったことで大きく評価を下げており、負の烙印を押されてしまった人物でもあります。
ヴェルナーはナチスの研究所にいましたが、核爆弾の開発は不可能だと考えていました。
結果的に考えうる最も悲惨な未来は回避されています。
イジドール・イザーク・ラービ(デビッド・クラムホルツ)ユダヤ人
ドイツ留学中に電車の中で出会ったオッペンハイマーの友人で、マンハッタン計画にも参加しています。
数世紀にも及んだ物理学を大量破壊兵器にしたくないという思いがありましたが、オッペンハイマーの説得によって決意。
放射線研究所の責任者として大きく貢献しました。
ノーベル物理学賞受賞者で、物理学者の良心的な立場としても登場しています。
マンハッタン計画に関わった科学者たち
時は進み、アメリカへ戻ったオッペンハイマーは、バークレーにあるカリフォルニア大学で教授の座になることに。
マンハッタン計画が始まるまでの15年あまりを研究と教鞭を振るいながら過ごしています。
そこでマンハッタン計画に関わる人間たちと出会っていくことになります。
この時に多くの共産党員と関係があったことがのちのオッペンハイマーのキャリアに影響を与えていくことにもなるのです。
そして、1942年。オッペンハイマーが38歳のときにマンハッタン計画が始動。
ニューメキシコのロスアラモスの所長となり、原爆の開発が始まるのです。
そこから3年後の1945年に最初の原爆実験であるトリニティ実験を成功させ、それから1か月も経たずに日本に原爆が落下されたのです。
マンハッタン計画には多くのユダヤ人や物理学者が関わっています。
アーネスト・ローレンス
アーネスト・ローレンスはサイクロトロンと呼ばれる粒子加速器を発明した人。
原子物理学で標準的に使用される機械で原爆の開発に欠かせない存在。
ノーベル物理学賞を受賞しています。
オッペンハイマーは、カリフォルニア大学で研究所を設立した彼を訪ね、やがてマンハッタン計画のリーダーの1人として関わることになります。
ニールス・ボーア
大学時代の恩師であるニールス・ボーアもこの計画に関わりました。
1940年にナチスがデンマークを占領したため、ユダヤ人であるボーアはイギリスに亡命しています。
そこで教え子だったヴェルナー・ハイゼンベルクがナチスで原子力の研究をしていることを知り、アメリカにわたりマンハッタン計画に参加します。
ナチスの状況を伝えるとともに、今オッペンハイマーが作ろうとしているものは単なる武器ではなく、新世界だと話したシーンが印象的です。
今生きている人間の多くが原爆後の世界を生きています。
まだ見ぬ大量破壊兵器がまさに実現しようとしている時、この恐ろしさはなんとも形容しがたいでしょう。
イシドール・イザーク・ラービ
友人、イザーク・ラービもオッペンハイマーの説得によってマンハッタン計画に関わりました。
マンハッタン計画のコンサルタントとして働くことに合意し、トリニティ実験にも参加しています。
クラウス・フックス
マンハッタン計画に参加し、原爆の開発に貢献した一方で、ソ連に情報を漏洩させていたスパイです。
映画で見られるように、フックスはハンス・ベーテの下で働き、爆縮の問題に焦点を当てました。
その一方でソ連に情報を2年の間、流し続けていました。
オッペンハイマーはそのことを知りませんでしたが、そのことがきっかけとなり聴聞会で尋問されています。
ハンス・ベーテ
イザーク・ラービの紹介でマンハッタン計画の立ち上げから関わっている人物。
テラーの核連鎖反応を否定していました。
結果的に制御できない核の連鎖反応は”ほぼない”という理論上の結論を出しています。
あまり目立ちませんが、普通にノーベル受賞者です。
オッペンハイマーと同じユダヤ人であり、ドイツのファシズムを恐れ原爆の開発に協力しました。
フランク・オッペンハイマー
弟のフランク・オッペンハイマーも計画に参加しました。
兄と一緒に原爆開発を成功に導くための貢献者でしたが、1949年に共産党員の過去を持つことが明るみになりました。
共産主義者としてレッテルを貼られたオッペンハイマーは、アメリカでの物理学の職を失いました。
また、パスポートの発行も拒否され、海外での仕事も不可能になりました。
エドワード・テラー(ベニー・サフディ)
オッペンハイマーのマンハッタン計画に参加した科学者。のちの水爆を生み出した男。
初の原爆実験(トリニティ実験)のとき、皆の驚きに反してその小ささにがっかりしたという人物。
空気中の大気を核融合させる超爆弾の開発を提唱する。
マンハッタン計画のチームメンバーからも不評でしたが、その類い稀ない能力をオッペンハイマーは認めており、独自の研究をすることを許しています。
エンリコ・フェルミ
ノーベル物理学賞を受賞したイタリア人。
ユダヤ人の妻がイタリアで迫害されるのを恐れて米国へ亡命。
その後オッペンハイマーのマンハッタン計画に参加し、原子核分裂の連鎖反応の制御を成功させました。
1944年にはロス・アラモスの副所長となるほどの存在ですが、映画ではそれほど脚光を浴びていない人物です。
ホーコン・シェバリエ
アメリカ人の作家・翻訳者であり文学教授。
オッペンハイマーとはフランクに連れられてきたパーティで出会い長年にわたり親交のある人物。
彼もマンハッタン計画に参加し、科学者たちが必要な情報を得られるようにフランス語の翻訳や解説を行っていました。
キティがノイローゼになった時子供を預けたのもホーコンです。
続いては、マンハッタン計画に反対していた科学者もいました。
代表的な人物がレオ・シラード。
レオ・シラード
ハンガリー生まれの物理学者で原子爆弾の開発に貢献しましたが、その使用には強く反対していました。
1939年にアインシュタインと共同してルーズベルト大統領に原子爆弾の開発を提案。
これは、ナチスドイツが先に原子爆弾の開発に成功し、世界が滅びることを恐れていたためです。
その結果、マンハッタン計画が立ち上がるのですが、完成した時にはドイツは降伏し標的は日本しかおらず、レオ・シラードがオッペンハイマーを止めようとします。
オッペンハイマーは原爆反対の署名を依頼されましたが、これを拒否しているのが印象的。
理論で進めてきた原爆が実現する瞬間、科学者としての好奇心がモラルを凌駕しているのがわかります。
マンハッタン計画の軍部/政府関係者
続いては政府と軍部。マンハッタン計画を推し進めてきた人間たち。
グローブス
アメリカ陸軍の軍人で、マンハッタン計画を指揮した人物。
1942年にマンハッタン計画を立ち上げ、オッペンハイマーをはじめ、アメリカ中から科学者や技術者を集めて計画を遂行していった立役者です。
その機密性の高さから厳しいセキュリティ体制を敷くものの、自由奔放なオッペンハイマーの行動を実際には黙認するところもあり、ゴールを達成するためには何が必要かというアメリカの合理性が垣間見える人物です。
原爆を日本に投下させるように仕向けたのは、トルーマンよりもグローブスの強い意向があったのではと言われています。
億単位もの国家予算を費やした原爆計画、グローブスはその責任者として、効果を証明しなければならなかったのです。
ヘンリー・スティムソン
日本のどこに原爆を落とすのかを決める会議で、12の候補から京都を外すように提言した人物。
原爆開発の責任者だったグローブスは京都攻撃を考えていましたが、文化的に重要な場所である京都は外しています。
そこは自身のハネムーンの地であるしと誰も笑えない冗談を言っていましたが、戦後日本の占領を考えた上で日本人感情を考慮した結果です。
この時、日本人は一億総玉砕を唱えている状態で、日本に上陸し全ての土地を占領し切るまでは戦争が終わらないと考えていました。その際、アメリカ人日本人問わずに多くの死者が出るとも。
決して肯定できる内容ではありませんが、さまざまな要因が絡み合い、史上最悪の爆弾が落とされる経緯が淡々とそして恐ろしく描かれています。
トルーマン大統領
原爆の投下を決めたアメリカ合衆国大統領。
ルーズベルト大統領が1945年に死去。
トルーマンは、副大統領になってわずか3ヶ月で、ルーズベルトとは1度しか会った事がなかったそうです。
就任した当時のトルーマンの様子をグローブスはこう語っています。
「トルーマンは原爆計画について何も知らず大統領になった。そんな人が原爆投下を判断する恐ろしい立場に立たされた。」
そんなトルーマンだが、原爆投下後にオッペンハイマーと面会した時、後悔しているオッペンハイマーに対しこう述べています。
トルーマン大統領は原爆のあまりの惨劇に2回目の投下以降は中止命令を出しています。
オッペンハイマーを巡る2人の女性
ジーン・タトロック / フローレンス・ピュー
オッペンハイマーの私生活では2人の女性が登場します。
1人はジーン・タトロック。
精神科医のジーン・タトロックは22歳の時にオッペンハイマーと出会います。
恋愛関係になるタトロックとオッペンハイマーでしたが、うつ病を患っており、精神的にも不安定でした。
1936年から交際を開始。一度は婚約までに至ったものの別れることになります。
その後、キティと結婚した後もタトロックとの関係は続いており、恋愛要素の時間軸が重なっているのも混乱する原因の1つです。
タトロックは共産党員でもあったため、マンハッタン計画以降、ソ連へ秘密を流していないかという点でFBIの監視下にあ離ました。
その関係性を保安公聴会で取り沙汰され、キティの前でタトロックとの話をするシーンがあります。
タトロックは1944年に自殺で亡くなりました。
共産党員だった彼女はFBIに殺されたとの陰謀論もあるほど突然の出来事でした。
タトロックの死を知って絶望しているオッペンハイマーをキティが慰めるシーンがありますが、不倫相手の死を嘆いている夫を見るのは複雑な心境だったことでしょう。
キャサリン・オッペンハイマー(キティ)
生物学者であり植物学者でもある共産党員の過去をもつ女性。
オッペンハイマーと1939年に出会い、1940年に結婚しているが以前他の男性と結婚していました。
この女性も自我が強く、夫を支えるために家庭を守り、子供を育てるという感覚に抵抗がありました。
子供を授かった後、彼女が育児ノイローゼとなり、親友に一時預けているシーンがあります。
しかし、マンハッタン計画が成功した時は子供と一緒に過ごしているシーンもあり、献身的に支えていることがわかります。
カラーとモノクロの本当の意味
オッペンハイマーは、非常に複雑な構成をとっているのですが、シンプルに考えると原爆前と原爆後の世界を表しています。
冒頭のタイトルにカラーのシーンで核分裂、モノクロのシーンでは核融合と表示されていました。
これは、核分裂により大爆発を起こさせる原爆と、核融合を利用した水爆を表しています。
そして原爆(核分裂)を作ったのがオッペンハイマーの視点と、水爆(核融合)を推進したストロースの視点で物語は流れていきます。
というわけでモノクロの世界は、ストロースの視点になるわけですが、彼は水爆推進派で、大量の核兵器を貯蔵することの重要性において、その強力な信奉者でもありました。
1959年に開かれた議会は、ストロースを商務長官に指名するか否かの公聴会を描いています。
銀行ビジネスで成功したストロースは、その資金力で原子力委員会のメンバーとなり、そこからさらなる影響力をつけるために政治の世界へ入ろうとしています。
この時代、ソ連はすでに核を保有しており、アメリカの独占ではありませんでした。
世界は核を廃絶する方向ではなく、軍拡競争の道を辿っていくことになります。
原爆の父であるオッペンハイマーは、核開発反対の立場であったため、両者には緊張関係がはしることになります。
それが1954年にあったカラー版オッペンハイマー視点の公聴会へと繋がっていきます。
科学的探究心により、世界を崩壊させる技術を生み出してしまったオッペンハイマーは、
原爆後の世界で逆の立場をとります。
そのことがソ連のスパイ疑惑を生むことになってしまうのです。
結果的にスパイの証拠はなかったものの、無実を証明することはできず、公職追放へ追い込まれることになるのです。
これを裏で意図引いていたのがストロースでした。
ストロースは機密情報をボーデンに流し、それがFBIへ密告されたことでオッペンハイマーは嫌疑をかけられてしまったのです。
また、その時の公聴会でオッペンハイマーを散々尋問していた弁護士ロジャー・ロブもストロースに雇われた側の人間でした。
そして、マンハッタン計画にも参加していた水爆の父、エドワード・テラーとも目的が合致していました。
だから彼は公聴会でもオッペンハイマーに不利な証言をします。
また、ストロースのことを議会で賞賛する場面もあります。
しかし、ここで1人の科学者が登場します。
デヴィッド・ヒル。
マンハッタン計画にも参加しており、のちに「マンハッタン計画:原子爆弾開発史」を書いた人物です。
オッペンハイマーの複雑な人物像を理解し、彼の科学への情熱と、戦争と科学技術の関係に対する深い憂慮を理解していました。
この場でヒルは、
ストロースがオッペンハイマーに個人的に恨みがあったこと
公聴会はストロースが仕組んでいたことを暴露します。
これにより、ストロースが商務長官に任命されることはありませんでした。
ストロースの個人的な恨みによりオッペンハイマーのキャリアは潰されたわけですが、
結果的に軍拡競争は止まらず、80年代後半まで続くことになります。
戦争抑止に一定の効果があった一方で、今もなお核戦争の恐怖が消えることはありません。
唯一の原爆被爆国である日本には 顔が歪んでしまう表現もあります。
ただ、この映画は原爆を賞賛するわけでも否定するわけでもありません。
その領域を知ってしまった科学者の探究心と、人間の業を見事なまでに描き、深い人間ドラマとしてオッペンハイマーの半生を深掘りしていきます。
なぜ、原爆が作られてしまったのか、なぜアメリカは日本に原爆を落としたのか。
なぜ、広島と長崎だったのか。
日本人には辛い映画ですが、同時にしっかりと観ておく映画だとも感じます。
この映画では特定の結論を導くような作りはしないように極めて慎重に作られています。
オッペンハイマーの科学者としての探究心、ドイツへの恐れや憎しみ、戦争を止めるためという建前、あらゆる面においてどこにも正義は存在しません。
なかなか難しい映画ですが、世界が戦争の世界に再び突入しはじめたいま、何かを考えるきっかけにしたい作品でもあります。
映画「オッペンハイマー」最後に
いかがでしたか。
映画はスリリングな音楽と映像の見せ方によって、3時間という長さのわりにはあっという間にも感じました。
しかし、理解するにはなかなか難しい映画でした。今回の解説が少しでも役に立てば嬉しいです。
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