映画「ラストマイル」鑑賞してきました。この映画「MIU404」と「アンナチュラル」と世界線が繋がっているシェアード・ユニバース作品として話題の作品。
前の動画でもそれぞれのドラマシリーズの紹介と、映画のつながりについて解説していますが、これが実現できたのはドラマ版でもタッグを組んだ監督の塚原あゆ子氏と、脚本家の野木亜希子氏が手がけた映画だから。
しかもどちらのシリーズに寄っているわけではなく完全オリジナルの新作。
そこに二つのドラマの登場人物がでてくるという仕掛けになっています。
気になるのはファンムービー的な要素がどれぐらいあるのか。
ドラマファンなら前作のキャラクターの誰がどこまで出てくるのか期待が膨らみますよね。
ましてやこの映画ではそれぞれのドラマの主演にあたる綾野剛、星野源、石原さとみ、井浦新が出てくることは決定しています。
逆にファンムービーすぎて、前作をあまり知らない人がついていけなくなるのかという心配もありますよね。
結論から言うと、新作映画としてめちゃくちゃおもしろかったです。
映画だからといって無理やり壮大にした感じもなく、こじんまりもしておらず、いい感じに盛り上げてくれるエンタメムービー。
主演に満島ひかりx岡田准一を迎え、巨大な物流センターを舞台に連続爆破事件が発生、日本中の物流網が大混乱に陥るスペクタクルムービーになっています。
ドラマ版でもそうですが、主役2人の掛け合いがおもしろいのが塚原x野木ワールドの楽しいところでもあります。
満島ひかりと岡田将生の掛け合いでも、ふふっと笑えるポイントもありましたし、他のキャラクターも緊張を緩和させてくれるようなシーンが多くて最高でした。
特に満島ひかりの自由な演技はシリアスなシーンもコミカルなシーンもちょうどいい塩梅で楽しめました。
この動画では前半は本作のあらすじからドラマ版の登場人物がどう絡んでくるのかを伝えていきます。
後半はネタバレを含めてラストの意味や、ロッカーに書かれた文字の意味などふくめて考察・解説をしていきます。
映画「ラストマイル」あらすじ
まずは映画「ラストマイル」のあらすじ。
11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界的なショッピングサイト最大手から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく。
関東の4分の3を担う巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ―
世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?
すべての謎が解き明かされるとき、
この世界の隠された姿が浮かび上がる。
映画らしく壮大な事件の主人公となる舟渡エレナ役に満島ひかり。中途採用で入社2年目のチームマネージャーの梨本に岡田将生。
映画「悪人」で共演した2人。
絶対面白いであろう2人のタッグが展開するミステリー/スリラー映画となっています。
監督は最初に述べた通り塚原あゆ子。脚本は野木亜紀子。
原作はシリアスな展開がありつつもバディ役になるであろう2人の掛け合いにも注目。
「アンナチュラル」でも「MIU404」でもコンビ芸がドラマの面白要素になっています。「アンナチュラル」では石原さとみと井上新、「MIU404」では綾野剛と星野源。
ケンカしつつもユーモアのある会話はクスッと笑えますし、出会った頃は水と油のような関係だったのが、だんだんとお互いを理解して相手を認めていくバディムービーとして楽しめます。
アドリブの掛け合いなら最高峰に位置する満島ひかりと、陰キャも陽キャもサイコパスも全方位にこなせる岡田将生の2人は最高でした。
ドラマのおもしろ要素をしっかりと詰めつつ、全方位に見やすいストーリー展開は映画でも見どころの1つになるでしょう。
今回の主役は巨大物流倉庫のセンター長。世界規模ということなのでAmazonがベースになっています。
映画の中で「自社はファッションが弱い」というセリフが出てくるのですが、それがまさにAmazonを指していて共感しまいました。
しかし、全体の市場規模は日本最強クラス。
とんでもない量の荷物が集まるブラックフライデーに爆弾が混入した可能性がわかったことで物流センターが大混乱になる話。
いつも利用させてもらっている物流センターの中がわかるというところも楽しめる要素ですし、実態に即したリアルな描写がされているようで、妙にリアリティがあります。だからこそ、その箱の中に爆弾があるという事実にちょっと恐怖を感じました。
「ラストマイル」は、「アンナチュラル」「MIU404」という複数の作品の世界線が交差する”シェアード・ユニバース”という設定により、各ドラマの主役が登場するため、非常に豪華なキャストになっているのも見どころ。
ラストマイルのキャストはこちら。
映画「ラストマイル」に登場する重要人物
舟渡エレナ/満島ひかりは、本作の主人公。
世界規模のショッピングサイトDailyFast社(通称:デリファス社)の関東センターに配属されたばかりのセンター長。何百人という人が常に働いている物流倉庫ですが、そのほとんどは契約社員。
社員はたったの9人しかいないそうです。
物語は舟渡エレナが配属されたところから始まります。
バリバリのキャリアっぽい感じで入ってきてブラックフライデーを成功させようと意気込んでいます。
それに反して仕事に対しての情熱は感じられず、何に対しての反応も薄いのが転職して、世界規模のショッピングサイトの関東センターにやってきた入社2年目のチームマネージャー。梨本孔。
前職は日本の悪いところを詰め込んだような会社か来たと語る梨本は、舟渡エレナに反して冷めています。
自分の意見も言わずもくもくと与えられたことをこなす梨本。「日本人の悪いとこ」「はっきりしなさい」と舟渡は臆することなく、ガンガン踏み込んでいきます。
ウザイ上司が来たなという感じで相手するも、前の上司は病気だったから変わってよかったと、本音が嘘かわからないセリフを言います。
その2人が管理する物流センターから発送された荷物が次々に爆発。それは末端の配送員が、各家庭に配達した直後に起こりました。
1人は死亡、他にも多くの人間が重軽症を負うという凄惨な事故が起きたのです。
この爆発物をきっかけに日本の物流網に関わる企業や人間たちが巻き込まれていく話になっていきます。
まず登場するのが運送会社。
今、Amazonから個人の宅配を引き受けているのはクロネコヤマトが中心です。
そんな名前を彷彿とさせるのが羊急便という運送会社。阿部サダヲ演ずる八木竜平は羊急便の関東局局長。
売上の6割をデリファス社から受けている羊急便は圧倒的に弱い立場であり、舟渡エレナから配送中の荷物を差し止めるようにムチャブリされます。
それというのも、配達された商品が関東センターから出荷されたデリファス社が製造している自社ブランドのスマホだったから。
結果、運送会社から末端の個人配送業社へ連絡が行き、そこで強制的に差しどめされます。
羊急便から委託ドライバーという形で配送をしている佐野親子は、年々下がっていく配送料に四苦八苦しながらも、一生懸命にお客様のもとへ配送を行っています。
しかし、配送一個あたり150円のため、差しどめられてしまっては配送料も受け取れない始末。
昼休憩の時間も惜しみながら仕事をしています。
その一方で、エレナの上司でデリファス日本支社の本部長である五十嵐道元は爆発物のことにには取り合わず自社ブランドのデイリーフォン1万台と稼働率70%以上を掲げ、エレナへブラックフライデー中に販売差し止めや出荷停止はありえないと伝えてきます。
このように上から下へ圧力がかかった結果、末端へとしわ寄せがくるという物流業界の闇/日本の闇が広がっていることがわかります。
佐野親子や、シングルマザーの親子の登場は、「ラストマイル」をとても身近なものに感じさせる存在でした。
どんどん巨大になっていくオンラインショッピングにより、海の向こうの会社は巨大化し、日本の物流網は疲弊しています。
なかなか実感しにくい点ですが、それらを観客に近い存在を出すことで、この問題をイメージしやすいと感じました。
そしてこの闇の構図を、作り出しているのは何もアメリカ本土からの意向だけではありません。
「#何が欲しい?」と欲望のままこの利益を享受している私たち消費者にも原因の一端があるのです。
という社会問題をあぶり出しつつも、映画は矢継ぎ早に爆弾の恐怖、物流倉庫のマヒ、犯人探しへと続いていく軽妙なミステリー/スリラーになっています。
爆発事件の捜査にあたるのはMIU404で登場した刈谷貴教扮する酒向芳。
星野源扮する志摩の元同僚で、昔気質な捜査一課所属の刑事。
自動化が進み、個人の所有物を一切持って入ることのできない物流センターのセキュリティレベルに、ガサツにも無理やり入ろうとするあたりなんかが観ていて笑わせてもらいました。
あと、ずっとキレているのも最高で、「検察側の罪人」では、ヤバい容疑者役を演じていましたが、存在感抜群の人間でもあります。
もう一人の刑事は大倉孝二演じる毛利忠治。こちらはアンナチュラル側の刑事で、MIU404にも軽く出演していた隠れ人気キャラ。
今回は2人の刑事がバディとして組むことになっていますが、サブキャラなのに人気の高い、2人の掛け合いにも注目。
ドラマファン向けのもう1つの主人公といったところですね。
ここからは物語の核心部分にまで触れますのでネタバレありで話していきます。
「MIU404」と「アンナチュラル」のキャラはどこまで登場するのか?
MIU404のキャスト
では、「ラストマイル」に2つのドラマがどう絡んでいくのか、出演するキャストはどれぐらい出るのかというのは気になるところでしょう。
結論から言ってしまうと、メインストーリーにそれほど絡むことなく登場シーンも少なめだったなという感じ。
確かに主要キャラが出てくるのは超豪華ですし、完全に新しいストーリーの中に無理なく入れ込んできたなというところは賞賛に値しますが、
ファンムービーとして観るのであればもう少し絡んで欲しいと思うところはありました。
ただ、ドラマで主役を張っている2人が登場するシーンは、「おっ!ついにきた!」と、なかなか興奮しましたね。
MIU404側は、機捜が爆弾犯人の捜査員として関わってきます。
伊吹刑事と志摩刑事、そして桔梗、陣馬などのキャラは前と変わらぬキャラのまま登場。
そしてもう1人はドラマ第三話で伊吹たちと鬼ごっこゲームを繰り広げた高校生の勝又。
上級生たちの不祥事により、陸上部の大会に出られなくなった腹いせに警察にイタズラ電話をかけ、鬼ごっこを繰り広げた子。
結果的に逮捕されるには至りませんでしたが、正義を盾にしたネット社会から私刑にされました。
彼はなんと第4機捜に入っていました。
ドラマにいた親がキャリアの九重は異動していると思われ、その代わり。
ただ、当時のことに言及することはなく、しれっと機捜に加わっていました。
志摩刑事がドラマにつぶやいた名言。
「人が道を間違えるのは自己責任だけではない。人によって障害物の数は異なり、正しい道に戻れる人もいれば戻れない人もいる。誰と出会うか出会わないか、行く末を変えるスイッチは何か。その時が来るまで誰にもわからない。」
この正しい道に戻れた側の人間だったので、できれば何かストーリーに絡むといいなと思ってましたが、残念ながら彼の内面や現況にフォーカスされることはありませんでした。
主役の2人が全く別の話の映画に登場するというだけでなかなか新しい試みであると思いますうし、それなりに登場シーンもありました。
ただ、本編にはあまり絡まず、中心の輪からは外れたところから捜査していたため、ちょっと寂しく思うところも。
刈谷刑事と毛利刑事のコンビ芸はとても良かったですね。
横文字苦手、デジタル苦手なステレオタイプおじさんすぎて老害認定されかねない刈谷刑事のいじり方は最高でした。
彼ら2人が物流センターの捜査担当になり、「デイリーファウスト社」を名乗るアカウントから12個の爆弾犯行声明があったことが判明。
そして爆破した商品が全て舟渡エレナがいる倉庫からの出荷されたものだと突き止めると、全ての物流を差し押さえる決断を下します。
これを予期していた舟渡エレナは、事前にX線検査を海外から購入、莫大な費用をかけて物流センターと配送会社へ設置させます。
差し押さえられることでブラックフライデーの物流が完全にストップしてしまう可能性があったのですが、それを逆手に取り荷物の安全性を警察に調べてもらうとともに配送を停止させないという奇策をとっていきます。
アンナチュラルに登場するキャスト
続いてアンナチュラル側のキャスト。
2018年に放送されたドラマ「アンナチュラル」は、一話完結型の法医学ミステリー。
主演の石原さとみが演じるのは、日本に170名ほどしか登録がない法医解剖医の三澄ミコト。「不自然死究明研究所(UDIラボ)」で、病死や無理心中、交通事故死とされそうになったご遺体の本当の死因を究明していく話。
実在しないフィクションの世界に作られた研究所を舞台に、さまざまなドラマ展開があり、また登場するキャラクターのクセも強くて何度見返しても面白い中毒性の高いドラマです。
一話完結型ですが、それぞれの話を通じて、ミコトをはじめ各キャラクターの想いを深掘りし、また、井浦新扮する中堂の恋人が殺された事件の真相に繋がっていくところもあり、その構成力はただただ圧巻でした。
今回は、爆発で死んだ人間を解剖するという点でストーリーに繋がっていきます。
遺体から何がわかるのか、というところで重要なポイントを担います。
ただ、機捜よりもさらに登場が少ないかなというのが残念。ミコトが登場するシーンはほんのちょっとしかなく、またセリフも少なめ。
今回、爆発の危険性があるということで、物流センターに警察の手が入り、配送停止にはならないまでも出荷前の全品検査により配送遅延が始まります。
UDIラボのような研究所でも物流遅延の影響を受けていて、コピー用紙が届かなかったりするなどで混乱を迎えています。
そこで中堂が「クソが」と言いかけて濁すシーンなど、アットホームな軽いコントが繰り広げられたのは懐かしくて嬉しい限りですが、それ以降はパッとした出番がないまま終盤を迎えていきます。
UDIのスパイとして潜り込んでいた久部六郎は、医大の研修医として働いていました。
彼は親や兄妹が一流医大に進む中、自身の出自に悩んでいたのですが、ちゃんと自分の使命を見つけてUDIラボを去って行ったのだと思われます。
その医大でも物流網の影響を受けていて、デリファス社から届くはずであったメディカル商品が遅延してしまっています。
個人の宅配が送れるだけであれば、よほどのことがなければ命に関わることはありませんが、病院では別です。
度重なる物流の混乱によりセンターからセンターへ商品を移送されたことにより、情報はデリファス社では完全にコンピューターが管理していましたが、運送会社はFAXで管理していました。
この辺りのアナログな感じも良いですね、実際、多くの会社ではFAXとはいかないまでもまだまだExcelで管理されていることも多く、その管理方法もずさんだったりします。
映画「ラストマイル」考察・解説
真犯人とは?
連続爆破事件の容疑者として山崎佑の名が上がると彼はロジスティックスセンターで働いていた人物だとわかる。
しかし、彼は5年前に西武蔵野ロジスティクスセンターで**「ブラックフライデーが怖い」**と言い残して飛び降りして5年間昏睡状態でした。
本当の犯人は恋人であった筧まりかであった。
彼女は恋人が植物人間になってしまったことでデリファス社に恨みを持っていた。
爆弾が仕込まれたのは配送の途中ではなく、ロジスティクスセンター内。
先行セール品を先んじて購入して、そこに爆弾を仕掛け、配送代行のシステムを利用してセンター内に紛れ込ませていた。
配送代行にはそれがわかるバーコードが商品の上から貼り付けられているだけなので、派遣社員として紛れ込んだ筧まりかは、
そのバーコードを剥がしたことで、爆弾の混入経路をわからないようにしたのです。
ロッカーに書かれた「2.6km/s 70kg → 0」の意味
冒頭の開かないロッカーから伏線が張られていていたわけですが、そこに書かれていたのは2.6km/s 70km. 0 というメッセージ。
これは植物状態になってしまった山崎佑(やまざきたすく)が飛び降りる前に書き残したメッセージでした。
これについての明確な説明はあえてされていません。
ただ、舟渡エレナが「2.6km/sはベルトコンベアの速度、70kmは重量制限」と言っていたことから、70kg以上の力を加えればベルトコンベアを止めることができる=ブラックフライデーを中止にできると考えたことが推測できます。
つまり、事前にそれを書き記したということは、事故でも事件でもなく、自分自身の意思を持って飛び降りたとわかるわけです。
しかし、実際にはベルトコンベアが止まることはありませんでした。
山崎佑はベルトコンベアから降ろされ、工場の稼働率は再び戻っていきました。
絶望の中、山崎佑はその画面を見つめていました。
その後、久部六郎が「バカなことをした」と呟いているところを聞いたことから、彼は相当追い詰められた精神状態だったのだと思います。
だって、普通に考えて飛び降りたからってブラックフライデーがやってこなくなるなんて誰も思いませんよね。
今、正常な精神状態で観ている私たちには想像がつきにくいことですが、仕事での過剰なプレッシャーに追い詰められた人間は正常な思考ができなくなるのです。
圧倒的なノルマに本社からの要求、いつ立場を追われるかもわからない恐怖、これらは変に真面目で勤勉な日本人には時にとんでもない苦しみを生み出すのです。
アメリカのような結果が全てのような企業には向いていなかったのかもしれません。
ある意味、多くを期待せず、上昇志向もないバイタリティ小さめな梨本孔のような人間の方が合っているかもしれません。
彼は逆に「日本の悪いところを煮詰めた会社」出身。
「ラストマイル」では誰が悪なのか、なにが正しいことなのかを特定せずに描いていきます。
面白いなと感じたのは、決して舟渡エレナは爆弾の恐怖から救うために動いた聖人などでもなんでもなく描かれていること。
舟渡エレナは一度休職して復帰していますが、それは精神状態を悪くしたから。その復帰後の職務での失敗は許されないことでしょう。
だから彼女は何がなんでも物流を止めないため、ありとあらゆる手を尽くし、本社の営業時間を計算した上で警察に情報を渡していたのです。
ストライキ
舟渡エレナは自身の再キャリアのために、孤軍奮闘していました。
運送会社を徹底的に叩き、デリファス社の意向に沿わせるように動かしていました。配送遅延の問題はデリファス社ではなく運送会社にあるのだと責任の所在をずらそうとしていました。
これと同じことをエレナの上司である五十嵐も行っていました。五十嵐はエレナの功績を自分のものとしてアピールし、失態は彼女になすりつけていました。
五十嵐は悪のように映っていましたが、エレナもまた同じことを下に向けてしているのです。
誰もが自分の責務を全うするため、自分の利益を考えて行動しているという事実を表しています。
しかし、ついに限界に来た運送会社の八木竜平は、エレナの意向を聞かなくなります。
そこでエレナは物流会社のストライキ、さらには配送遅延による損害補償を求めた書面をデリファス社に送ることを画策。
また、他のライバル社たちがデリファス社へ協力しないという声明まで取り付け、デリファス社に賃金の値上げを認めさせることに成功したのでした。
なぜ12個目の爆弾が存在したのか。
最初の被害者である遺体がUDIラボに運び込まれると、男性であるはずの遺体が実は女性であることが判明する。
その被害者は筧まりかだった。
そして、その外傷は他の爆発と異なり、顔の表面だけ別の火傷を負っていた。それは爆弾の1つが不良品だということを知っていて、無理やり爆発させるためにガスで充満させた部屋でボンベを爆発させていたのだということが判明する。
つまり、不良品で使えなかったと思われていた爆弾の代わりにもう1つ爆弾が残っていることを示していた。
それはすでに配送済みでまだ未開封のまま残っていたとある親子の宅配ロッカーにあった。
それを知らされたラストマイルを担う佐野親子は現場に急行。
息子が無理やり押し入り、今開けようとしていた爆弾を洗濯機に放り込んだことで不発終わりました。
その洗濯機は、性能は良いのに価格競争に負けてしまった佐野のメーカー製品。最後に母娘を守ったところが最高に痺れました。
ここに監督や脚本家の仕事に対するメッセージが詰まっていると感じます。
洗濯機に限らずクリエイティブな仕事本当にユーザー・ファーストを考えて真摯に向き合っている人たちだからこそ伝えたいことだったのではない価値。
筧まりかはなぜ犯行を犯したのか
自分の彼氏が植物状態になり、その原因を作ったデリファス社を恨んでいたという事実がある一方、今回の事件は小さな子どもを含めて、何の罪もない人たちを犠牲にしかねない出来事でした。
犯行するにしても無実の人たちを無差別に巻き込みすぎでは?というモヤモヤした感情が後に残されたままでした。
肝心の本人は映画の冒頭で死んでいるわけですから、真意が語られることなく、やっぱり恨みによる犯行でしかわからないのです。
絶望して悪に染まってしまったという見方もありますが、彼女自身のキャラクターは、山崎佑を追い詰めた会社の事実を明らかにしたいという思いは伝わるものの、心の奥底に秘めた絶望や悲哀はわからないままです。
ただ、1つわかることはデリファス社の社訓にもある、「カスタマー・セントラル」
筧まりかは、山崎佑が会社に殺されたと考えると同時に、その会社が顧客の欲望を叶える場所だということも知っていました。
日本中に広がるデリファス社の恩恵を得ている私たち全員も同罪なのだと考えるに至ったのでしょう。
だから彼女にとってはそれが子供であろうとも、「カスタマーセントリック」の考え方を否定するために犯行を実行したのです。
しかし、彼女がどれほどの覚悟で事件を起こしたのかが伝わるのが、1つだけ起爆しないかもしれないと言っていた爆弾をあえて使ったこと。
部屋中をガスで満たして引火させ、顔面に火を浴びながら起爆スイッチを押した彼女は、自分が一番苦しむ死に方をしようという覚悟があったからです。
このことから、他の犠牲者のことを何も考えていなかったわけではなく、狂っていたわけでもない。
少なからず罪悪感というものがあったことが窺えるのです。しかし、どれほどの犠牲を持ってしても自分が成し遂げるべきことをしたのだと示唆されています。
どういう見方をしたところで彼女が凶悪な事件を起こした最悪な犯罪者であるということは変わりませんが、私たち消費者は間接的な加害者ということもまた事実。
物語はそれほどシンプルにはならず、すっきりしない嫌な感じの感情が残る後味の悪い映画でもありました。
舟渡エレナの「まだ爆弾はある」の意味
舟渡エレナは、本社にいるサラから送り込まれた人物でした。
サラが爆弾の件で脅迫メールを受け取っていたから。そ の情報を削除するために梨本だけでなく本部長の五十嵐にも知らせずに、山崎佑の情報を削除するようにエレナに命じていたのです。
X戦検査の機械を1日も経たないうちに日本に導入できたのは、このサラの力も強かったものと思われます。
しかし、爆弾のことまで知らなかったエレナは、サラに失望しデイリーファスト社を辞職する決意をしています。
そして、ラストシーンでエレナがサラに対して言った「まだ爆弾はある」という発言ですが、これは物理的な爆弾のことではなく、
次の山崎佑になる人間が他にもいることを示しています。
そしてその人間はおそらく今回の失態で人事降格にあった五十嵐。
彼もまた強がっていましたが、山崎佑の事故を受け止めきれず、自分自身を守るために強い姿勢を装っていたのです。
五十嵐は、山崎佑が最後に見下ろした景色を見ています。
その精神状態は本当に大丈夫なのでしょうか。
「ラストマイル」は2024年を代表するエンタメ映画
本当に脚本から演出、俳優の演技まで素晴らしい出来で、日本を代表するエンタメ映画となっていました。
散りばめられていた伏線も気持ちよく回収してくれていて、隅から隅まで余すことなく楽しめる作品です。
ドラマではあの時の真意とか、キャラクターの感情描写を細かく描いてけるのですが、映画上の尺の都合もあり、あえてしっかりと説明せずに余韻を残して終わったところもよかったです。
だからこそモヤっと終わってしまったところもあるのですが、こうやって後から考察してみたり、みんなの意見を聞いたりすることで、何度でも楽しめる映画でもありました。
次回作はドラマなのか、映画なのかわかりませんが、もう一度この二人にタッグを組んでもらいたいものです。
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